この異色の大河の撮影は、ハリウッドのユニバーサルスタジオ内にリトル・トーキョーを再現したり、天羽家が最初に定住したインペリアル・バレー、日系人強制収容所があったマンザナールで行われた。
中でもハリウッドのオープンセットを日本の映画やテレビが使用するのは初めてのことで、近藤の意欲の現れのひとつだ。因みに近藤は「黄金の日日」で大河ドラマ初となるフィリピン・ロケ、「獅子の時代」ではフランス・ロケも手がけおり、“新しいことを始める際の斬り込み隊長”を自他ともに認めていた人。
彼の意欲はキャスティングにも現れている。「国籍はアメリカだが心の中は日本人」と主張する主人公の天羽賢治に松本幸四郎(現 白鸚)、その父母、弟に三船敏郎と津島恵子、西田敏行、天羽と関わる女性たちに大原麗子、島田陽子、多岐川裕美、その他、沢田研二、鶴田浩二、渡辺謙などベテランと新進気鋭のスターたちを集結させた。
世界的大スター三船敏郎と歌舞伎界の貴公子松本幸四郎、やがて大河の顔になる西田敏行、人気絶頂の沢田研二の起用は、近藤の際立ったキャスティング術の冴えを感じさせる。
女優陣のひとりである多岐川裕美さんは、「風と雲と虹と」で大河に初出演して以来四作目に当たる本作では、主人公天羽賢治の幼友達で親の勧めで賢治と結婚する畑中(天羽)エミーを演じた。
賢治の出征中に身を寄せていた実家付近で白人浮浪者に強姦され、以後アルコール中毒となる悲劇の日系女性だ。
「当時はまだ若かったのでアル中がどんなことなのかまったく分からず、酔っぱらった人を観察してその振る舞い、歩き方などを真似ました。日系アメリカ人のこともあまり知らなかったので自分なりに勉強して、エミーというヒロインになりきろうと努力したのを覚えています。エミーを演じたお陰で、女優としての視野と幅が広がったように思います」
また、長期にわたって身をおいた撮影現場については、「スタッフ全員が細部に至るまで細やかに気を配り、緊張感に充ちた現場でした。三船さん、松本さんというビッグな方たちが私のような何もわからない女優にも親切に接してくださり感激しました。すべての面で得難い体験をさせていただきました」と語る。