

松坂大輔の3度目となるオープン戦のマウンドは3月25日、中10日で迎えたナゴヤドームでの対ロッテ戦となった。今季からロッテの監督に就任したかつてのライバル・井口資仁は、松坂を「足」で揺さぶってきた。3盗塁を決められた松坂の心中は決して穏やかではなかったようだ。
「よく走られてしまった。僕に原因があります。クイックの仕方を変えないと、走られてしまう。昔から、入団したときから言われています」
西武での8年間で、7度のゴールデングラブ賞を獲得するなど、投手としての守備にも定評はある松坂だが、唯一の苦手とも言えるのが、走者を塁に置いた際のクイックモーションだった。盗塁阻止は、投手と捕手の共同作業とも言われる。投手がモーションを起こしてから、その投球が捕手のミットに収まるまで1.1秒台の後半から1.20秒あたりが標準で、最低でも1.25秒まで。捕手はミットで球を受け、送球体勢に入り、二塁手のグラブにボールを収めるまでに2.0秒以内が標準で、遅くとも2.1秒台。総タイムを「3秒2」前後にすることで、俊足と言われるランナーの盗塁でも十分アウトにできる。
日本では「クイック」と呼ばれるが、メジャーリーグでは「スライドステップ」とも言われる。その言葉通り、クイックの際には、足の上げ方を小さくすることでモーションをコンパクトに、しかも速く行うことで、投球にかかる時間をコンマ数秒とはいえ、短くする必要がある。ところが、松坂はその代名詞とも言える豪快なワインドアップの名残のせいなのか、セットポジションから始動する際もセットしたグラブを動かさないと、投球のリズムが取りづらいようなのだ。
「足から動かすことなんです。でも僕は、クセで手から動く。だから、手が動いたところで走られてしまうんです」
松坂の手が少し上へ動くそのタイミングで、ロッテのランナーがスタートを切る。つまり、モーションが盗まれているということだ。それは、西武時代からの課題でもある。ダイエー(現ソフトバンク)での現役時代、松坂との対戦で85打数31安打の打率.365をマークして「松坂キラー」と呼ばれた上に、2001年と2003年の2度、パ・リーグの盗塁王に輝いた敵将の井口は松坂の小さな隙を知り尽くしており、そこを容赦なく選手に突かせたのだ。