最初のバンド、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスとしての録音も1曲、「ヒア・マイ・トレイン・ア・カミン」が収められている。12弦アコースティック・ギターを弾きながら歌うソロ・パフォーマンスの映像でよく知られた曲だが、ここで聴くことができるのは、約7分半のハードなエレクトリック・ブルース。バンドとしてのエクスペリエンスの凄さをあらためて認識させてくれる貴重なテイクだ。
共演ものは4曲。無名時代に何度か活動をともにしていたサクソフォン奏者ロニー・ヤングブラッドのセッションを手伝う形で録音された「ジョージア・ブルース」、ジョニー・ウィンターも参加したギター・スリムの「シングズ・アイ・ユースト・トゥ・ドゥ」、スティーヴン・スティルスをヴォーカルとオルガンでフィーチュアした「$20ファイン」「ウッドストック」が収められている。
とりわけ興味深いのは、ジミがベースを弾いている「ウッドストック」。実際にはあの巨大フェスティヴァルに参加していなかったジョニ・ミッチェルが書いたウッドストック賛歌はCSNYのアルバム『デジャ・ヴ』で取り上げられ、彼らの代表曲の一つとなるわけだが、それよりも先に二人が録音していたことがわかる。当然、CSNYのヴァージョンにも影響を与えたと思われる、資料としての価値も高いトラックだ。
最後に紹介するのは、エクスペリエンスのドラマー、ミッチ・ミッチェルと録音した2つのインストゥルメンタル。「スウィート・エンジェル」は、死後に発表され、多くのアーティストにカヴァーされることとなる名曲「エンジェル」の創作過程で残されたもの。何度も、何度も試行錯誤を繰り返した彼の完璧主義を伝える曲でもある。そして、エンディングに据えられた美しい「チェロキー・ミスト」(ジミは、母方の祖母からチェロキーの血を受け継いでいた)。エレクトリック・シタールも弾いたこの曲は、27歳で急逝した彼が無限の可能性を持つ音楽家であったことを、優しく、穏やかに物語っている。(音楽ライター・大友博)