ジミ・ヘンドリックスの未発表スタジオ録音を集めたニューアルバム『ボウス・サイズ・オブ・ザ・スカイ』が3月9日にリリースされた。その魅力を音楽ライターの大友博さんが語る。
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あと2年と半年ほどでいよいよ50周忌ということになるあの偉大な音楽家から、新しいアルバムが届けられた。ジミ・ヘンドリックスの『ボウス・サイズ・オブ・ザ・スカイ』。もちろん、本人が届けてくれたわけではなく、これまでもなるべくそういう表現は避けるようにしてきたのだが、ついそう書いてしまった。
半世紀近く前に残された貴重な音源を、エンジニア/プロデューサーのエディ・クレイマーらがジミの想いをしっかりと受け継ぐ形で作品化したこのアルバムのそこかしこから、驚くほど生き生きとした息づかいのようなものを感じたからだ。これもまたできれば避けたい表現なのだが、「ついこのあいだ録音されたものでは?」と思ってしまう曲も少なくなかった。
あらためて振り返っておくと、ヘンドリックスが完成までにきちんと関わったスタジオ録音作品は、1967年発表の『アー・ユー・エクスペリエンスト』と『アクシス : ボールド・アズ・ラヴ』、68年発表の『エレクトリック・レディーランド』の3枚のみ。その後、ウッドストックやワイト島での伝説的なライヴ・パフォーマンスによって文字どおりの頂点に立った彼が1970年秋に急逝すると、残された音源がさまざまな形態やタイトルで作品化されてしまうこととなった。選曲や仕上げや関わった人たちはそれぞれのスタンスでいわゆる遺志を受け止めようとしたはずだが、しかしやはり、そのどれもがなにかを欠いていた。
75年に音源管理権がジャズ系のプロデューサーだったアラン・ダグラスの手に移ると、いくつかのトラックを差し替えたアルバムまで発売され、当然のことながら、批判の声を集めることに。93年にダグラスが手がけたオリジナル3作品のCD版再リリースでは、なんと、ジャケットのイメージまでがすっかり変更されてしまっている。