その4つの映像作品のすべてで、オーディエンスからの反応も含めてまさにハイライトとしてフィーチュアされているのが、『ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア』のタイトル曲と、『ザ・ウォール』収録の「カムファタブリィ・ナム」。アコースティック・ギターを核にしたロックの名曲の代表格とも呼べる前者は、ギルモアが弾いていたいわば曲の原型にウォーターズが興味を持ち、歌詞を加えて完成させたもの、ドラマティックに展開される後者は、もともとはギルモアのソロ作品のために書かれていたものがベースになっているらしい。
この2曲が典型的な例といえるかもしれないが、ギタリスト=ギルモアは、きわめて特徴的なこととして、基本的にはライヴでもオリジナルの雰囲気を守り、ソロの構成や進行も変えることがない。しかもそのうえで、つねに新鮮なイメージのプレイを聞かせていく。簡単なことではないが、それができるアーティスト、ということなのだろう。神秘的な空気の漂うポンペイでのライヴ映像を観て、そういった音と向きあう姿勢がより揺るぎないものになっているという印象を受けた。
オハイオ州クリーヴランド出身のボビー・ウーマックは、ソウル・シンガーと紹介されることが多く、もちろんそのとおりなのだが、レパートリーのほとんどを自ら書いてきたソングライターであり、そしてまた、ギターを抱えた姿がなんともサマになる人でもあった。とりわけ、1981年のアルバム『ザ・ポエト』での、名器ゼマティスを抱えた写真が忘れられない。左利きながら、弦を張り替えずに弾いていて(アルバート・キングなどと同じで、つまり、低音弦が下にくる)、その個性的な奏法から生まれる音が、間違いなく、彼が書く曲にも反映されていたはずだ。代表曲の多くは、熱く、リアルなラヴ・ソングだが、89年には『セイヴ・ザ・チルドレン』という強いメッセージの込められた作品も残している(カルロス・サンタナも参加)。