ボビー・ウーマックの名がロック・ファンのあいだでも広く知られるようになったそのきっかけは、ローリング・ストーンズが1964年に彼の曲「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」を取り上げて大ヒットさせたことだろう。まだまだなにもわからなかったころで、「尊敬する偉大な黒人アーティストの曲をカヴァーしたのだなあ」などと受け止めてしまったのだが、かなりあとになってから、ミックやキースよりボビーのほうが年下だということを知った。思い返せば、勝手な思い込みはいけないのだと教えられた、じつに貴重な体験でもありました。

 クリス・レアは、イングランド北部ミドルズブラ出身のシンガー・ソングライター。ちょっとかすれ気味で、骨太の低い声を生かしたアダルト・コンテンポラリー風な作風で、1970年代末から80年代にかけて、「フール」「ジョセフィン」「ザ・ロード・トゥ・ヘル」など多くのヒット曲を放っている。彼もまた優れたギタリストであり、レコーディング作品ではあまり聞かせることがなかったが、ドゥエイン・オールマンやローウェル・ジョージからも影響を受けたというスライド・ギターはなかなかのものだった。

 恥ずかしいのでタイトルは明かさないが、クリス・レアが80年代半ばに発表したアルバムが、じつは、僕の国内盤ライナーノーツ、デビュー作。30歳過ぎてのことながら、若書きというか、思い込み過多というか……。ああ、恥ずかしい。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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