音楽プロデューサー・小室哲哉さん(59)の不倫疑惑報道と引退が突きつけたのは、どんなに抜きんでた才能を持ち、時代の先端を走ってきた人物にも等しく「病」や「介護」がやってくるという現実だった。高齢化が進む日本では、誰もが身近な人のこととして直面するであろう。特に、パートナーを支えるには、精神的な葛藤やストレスを伴う。夫婦カウンセラーの西澤寿樹さんは「我慢することを強いることは、危険な発想だ」と指摘する。
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小室哲哉さんに関する報道は、特殊な2人の背景や、不倫という面ばかりが強調されますが、多くのカップルに起こりうるさまざまな問題を提起しているように思います。
生きている限り、人は変化し続けます。その変化が夫婦の求心力を強めることもあれば、危機を招くこともあります。一般的に、変化は人にとってストレスです。それは結婚や昇進のような喜ばしいことでも変わりません。1960年代にアメリカの社会生理学者・ホームズとレイが作成した「社会再適応尺度」は有名ですが、彼らは生活の中にあるあらゆる出来事が心理的なストレスになると主張しました。そこには夫婦や家族に関係する項目が半数近くあるので、それらを引用して紹介します。
<生活上の出来事とストレス強度>
配偶者の死 100(最高値)
離婚 73
夫婦の別居 65
結婚 50
夫婦の和解 45
家族が健康を害する 44
妊娠 40
性生活がうまくいかない 39
経済状態の変化 38
優れた業績をあげる 28
妻の就職、復帰、退職 26
生活状況の変化 25
※ホームズとレイの「社会再適応尺度」より一部を抜粋
小室さんの場合、いくつもの項目にかかっているようですが、一番大きなストレスは、KEIKOさんの病気ということのようです。ただ、これは単に「家族が健康を害する」ということ以上の意味があったと思われます。大病は大なり小なり、今までのその人とは違う人に見えるようになってしまう、という側面がありますが、KEIKOさんの場合は、病気の性質上それが顕著でした。小室さんは記者会見で、「一番ショックを受けたのは、KEIKOは歌手ということで大きな存在だったと思うのですが、残念なことに音楽に興味がなくなってしまって」と語っていましたが、心理的には「いままでのKEIKOさん」がいなくなってしまったという体験だったのでしょう。つまり離婚や別居に近いストレスを小室さんは感じたはずです。