松井秀喜選手は7月末、シーズン途中に入団した大リーグ・レイズから成績不振を理由に戦力外通告を受けた。日本のプロ野球界から国内復帰への待望論があるにもかかわらず、その決断は米国残留だった。投資助言会社「フジマキ・ジャパン」代表を務める藤巻健史氏は、「やじ馬」たちで、こんな茶飲み話をしたと明かす。

*  *  *

もちろん、「メジャーでまだやれる」というプライドもあっただろうし、彼なりの人生観で下した結論だから、金銭的な話をするのは失礼ではあるが、やじ馬としての我々の結論はこうだった。「もうすぐ在米10年。年俸が急減しているのに米国で頑張っているのは、もうちょっとで、米国で多額の年金をもらえる資格を得るからじゃないの? 早く帰国して権利放棄するのはもったいないよな?」

 米国の年金制度は「自分で積み立てたものを後でもらう」というコンセプトである。メジャーリーグの選手会がおのおののサラリーからかなりの金額を積み立てて運用しており、メジャーで10年間ベンチ入りすると60歳から満額支給されるそうだ。このような年金を「確定拠出年金」という。拠出額、つまり年金の受け取り手が現役の間に支払う掛け金の金額が決まっているということだ。もらえる額は運用次第。「自立」を求める米国らしい仕組みである。「自分で積み立てたものを自分に支払う」のだから外国人選手にも支給されるわけだ。
一方、日本の年金は「若い人が老人を支える」というコンセプトで、若い人が払う掛け金は現在の老人のために使われる。若者が老人になったときには、次の世代の払う掛け金が、その時の老人の年金の財源となる。「確定給付年金」と言われる。拠出金ではなく、給付される年金の額が確定している方式だ。次の世代の掛け金を支払う能力が小さくなれば、その時の老人は、自分が払い込んだ金額以下の年金しか受け取れない可能性もある。また松井選手の逆バージョン、すなわち米国人選手が60歳から日本の年金をもらえる可能性はまずない。

※週刊朝日 2012年9月21日号