地元の埼玉県で18日、記者会見を開き、「耳鳴りが…」と右耳を押さえ、うずくまる一幕もあった豊田真由子衆院議員(42)。耳鳴りは、全人口の10~15%は感じているといわれ、日常生活に支障をきたすほどの症状がある人は、そのうちの数%だ。患者数は多いにもかかわらず、根治的な治療法は確立されていない。しかし、近年、苦痛を軽減する治療が登場している。
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耳鳴りとは外部の音がないにもかかわらず音を感じる現象で、約9割は老人性難聴や突発性難聴などの難聴に伴って起こる。そのほか脳動脈瘤(りゅう)や聴神経腫瘍(しゅよう)など脳の病気が原因で起こることもある。
通常、難聴の回復とともに耳鳴りも小さくなるが、慢性化すると完全には消えにくく、現在のところ耳鳴りを消す特効薬はない。
耳鳴りで耳鼻咽喉科を受診する人の訴えの多くは、「脳の病気ではないか」といった病気に対する不安や睡眠障害、集中力の低下などだ。重症になると外出ができなくなり、うつ病を発症することもある。名古屋第一赤十字病院耳鼻咽喉(いんこう)科部長の柘植勇人医師はこう話す。
「耳鳴り治療の目的は、耳鳴りがあっても苦痛を感じないようにすることです。苦痛を感じていなければ、治療する必要はありません」
耳鳴りがもたらす苦痛は近年、耳ではなく脳に原因があることがわかってきた。
耳から入った音は内耳の蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変えられ、脳の皮質下に送られる。そこで音が選別され、重要な音や危険な音だけが大脳皮質までたどりつき、はじめて音として認識される。
難聴の多くは、蝸牛が損傷を受けて脳に届く電気信号が制限されることが原因だ。それにより、聞こえない分を補おうとして大脳皮質にある聴覚中枢が音の調節機能を変えることで耳鳴りが起きると考えられている。
今まで聞こえなかった耳鳴りを急に感じると皮質下は耳鳴りを重要な音と判断して大脳皮質へ送る。耳鳴りに対して不快感が続かなければ、やがて皮質下は重要な音ではないと判断し、大脳皮質へ送らなくなる。ところが、耳鳴りを不快だと感じたり、何らかのストレスがあったりすると、脳の大脳辺縁系や自律神経系が働き、苦痛を感じるようになり、耳鳴りが慢性化する。