木村:なるほど。戦争を防ぐことは国にとってすごく大事な目的ですね。ここではもう少し身近な例に置き換えて、例えば「警察」という仕事を考えてみましょう。

 警察にはさまざまな仕事がありますが、中でも大切なのは「犯罪を防ぐこと」ですね。警察署があれば、窃盗や暴行、強盗など、その地域の犯罪が減ります。

 言い方をかえれば、私たち市民は全員「地域の治安を守る」という警察のサービスを受けているわけです。ここで考えたいのが、このような警察のサービスは「お金を払った“対価”として提供されているわけではない」ということです。

 例えば、AKB48のコンサートは誰もが観られるわけではありませんよね?

向井地:基本的には、チケットを買ってくださった人だけが観られるものですね。

木村:つまりAKB48の歌や踊りといったサービスは、金銭の対価として提供されています。でも、警察のサービスはそうではありません。その地域に住んでいれば、国にお金(税金)を払っていてもいなくても、警察から身の安全を守るサービスを受けられます。このようなサービスを「公共財」といいます。

 ここで皆さんに質問です。もし警察が「警察のサービスを維持するためにお金を払える人は払ってください」と、人々の自由意思に任せて組織を運営するようになったら、どうなるでしょうか?

向井地:うーん、お金を出しても出さなくても守ってもらえるなら、正直「払わなくてもいいか」と思ってしまいそうです。

木村:その通り。それぞれの人の判断に任せると、「自分は参加しなくてもいいや」とか「お金を払わないほうが得だ」とふつうは考えます。その結果、公共財が十分に提供されなくなってしまうわけです。

茂木:警察や道路がなくなっちゃったら、困ります……。

木村:道路をつくるとか、橋を架けるとか、国がやっていることの多くは、そういう公共財にかかわるものです。誰かが橋を架ければ、それに協力した人も協力していない人も通れます。協力した人しか通れない橋を架けるのはなかなか難しいでしょう。

 そこで全員を強制的に参加させて、税金という形でお金をとることを認めさせる。そうすることで初めて特定の人を排除できないようなサービス(公共財)を全員に提供できるわけです。国が「強制加入団体」である理由が、何となくつかめましたか?

加藤:国は公共財を皆に提供するからこそ、人を強制的に参加させることが許されるわけですね!

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