ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルクの軍需工場を訪れ、ウクライナ侵攻について「勝利は必然だ」と強調した/1月18日(代表撮影/UPI/アフロ)
ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルクの軍需工場を訪れ、ウクライナ侵攻について「勝利は必然だ」と強調した/1月18日(代表撮影/UPI/アフロ)

 岸田政権は、日米同盟強化と中国抑止の名のもとに、日本の人命と国土を提供しようとしているのではないか。だが、そうした事態に国民を巻き込まないよう予防することこそ政治の役割である。「軍備を増強して備えたけれども事態をエスカレートさせて先制攻撃を受けた。仕方がなかった」ではすまされない。安全保障のジレンマを回避する戦略的な慎重さが必要なのだ。

 この間、ウクライナ戦争をめぐるエモーショナルな報道はあっても、この戦争の本質に迫ろうという記事にはなかなか出合わない。「戦え一択」の世論や論壇主流への迎合なのか。現地では、双方がより有利な停戦条件を狙って相手の犠牲を増やし合うという負のスパイラルのような戦局が続いている。その先に一体何があるのだろう。

■ロシアをたたくだけでは人命の犠牲を防げない

 今回のロシアのウクライナ侵攻は国際法的にも人道的にも容認できない暴挙である。だが、ロシアを悪魔化し、それをたたいて留飲を下げるだけでは人命の犠牲を防げないのもまた現実だ。地球を何度も破滅させられるほどの核兵器と原発を抱えてしまった今の時代に、戦闘の長期化で人類に重大な危機が迫っているにもかかわらず、自由と民主主義、人権の価値を共有すると標榜(ひょうぼう)している国々はなぜ、即時停戦と即時対話を叫ぼうとしないのか。

 今めざすべき道は即時停戦に向けて関係国が動くことだ。「ウクライナ頑張れ」の熱気の中でこうした声はかき消されてきたが、民主主義対専制主義の二項対立を追い求めるだけでは立ちゆかなくなっている。自由と民主主義を掲げるNATO諸国が武器支援のレベルを次第に引き上げ、ロシア対NATOの戦争に発展しない範囲でウクライナの徹底抗戦を支えていく限り、人命損失にも終わりは見えないだろう。

 その行き着く先は核戦争リスクの高まりである。今は第2次世界大戦時と状況はまったく違う。大量の核兵器と原発があふれた世界だ。相手と二度と戦わずにすむよう徹底的にたたく「紛争原因の根本的解決」など、もはや無理な世界なのだ。これ以上紛争がエスカレートする芽を育ててはならない。(朝日新聞編集委員兼広島総局員・副島英樹)

AERA 2023年2月13日号

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