ロシアによるウクライナ侵攻から、2月24日で1年となる。両国の犠牲者は増え続け、核戦争のリスクの高まりも懸念される。即時停戦に向けて今、何ができるのか。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。
【写真】ドイツでの国際会議にオンラインで参加したゼレンスキー大統領
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ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年が経とうとしている。両軍の激戦は今も連日続き、兵士もウクライナ市民も命を落としていく。この戦争が意味しているのは何か。我々は今、「安全保障のジレンマ」の典型例をまさに見せつけられているのではないか。
ウクライナ戦争の熱に浮かされるかのように、岸田文雄政権は昨年12月に安全保障関連3文書を閣議決定した。国会審議も経ずに敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、2023年度から5年間の防衛費大幅増を盛り込んだ。岸田首相は年明け早々、バイデン大統領への報告のため渡米した。
ドイツのメルケル前首相が昨年12月にドイツ紙「ディー・ツァイト」のインタビュー記事で述べた発言が注目されている。かつてウクライナ軍と同国東部の親ロシア分離派勢力との戦闘で14年と15年に結ばれた停戦協定「ミンスク合意」について、「ミンスク合意はロシアとの軍事対立に備える時間をウクライナに与えるために署名された」という趣旨を述べたのだ。
この発言にロシアのプーチン大統領が「思いもよらぬことで落胆した」と反応した。ウクライナ前大統領のポロシェンコ氏もミンスク合意の履行など考えてもいなかったと語っていたとするロシア側は、メルケル氏の発言がそれに符合するとみている。これが本当だとすれば、ウクライナは米欧の全面支援で軍備増強をしたから侵攻を受けたという構図になる。これは教訓としてくみ取るべきことではないか。
もちろん今回の戦争の第一義的な責任はプーチン氏にある。ウクライナ国民が反撃に立ち上がり、それを西側諸国が支援するのは当然だろう。ただ、米国と欧州の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大の究極地点に位置づけられたウクライナを見ていると、ロシアを弱体化させるために米国の盾としてウクライナが焦土化し、人命と財産が差し出され、米国の代理戦争を強いられているようにも映る。台湾をめぐる中国への盾として日本も利用されないかと懸念が募る。