少子高齢化が進む中、医師の偏在や病院の経営悪化・閉鎖など、医療におけるさまざまな問題点が浮かび上がっている。『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日』(朝日新聞出版)などの著書がある医療ガバナンス研究所の上昌広医師が、日本の医師不足の現状と対策に切り込んだ。
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東日本大震災から6年4カ月が経過した。私たちの研究所は、福島の医療支援を続けている。
マスコミは被災地の医療機関の窮状を報じることが多いが、この地域の病院の中には、震災後、急成長したところもある。その一つが、いわき市のときわ会常磐病院である。常勤医師数は震災前の8人から、24人(2017年5月末日現在)に増加した。
最近、常磐病院で興味深い動きがあった。5月8日、常磐病院内に実験施設であるRIIM(Research Institute of Innovative Medicine)をオープンしたのだ。
リーダーは加藤茂明・元東京大学分子生物学研究所(分生研)教授だ。彼は1982年に東大農学部を卒業した研究者で、医師ではない。98年に分生研の教授に就任したが、教室の研究不正の責任をとり、2012年3月で東大を辞職した。その後、福島で若手医師や地元の子ども達を指導している。現在は常磐病院の職員だ。
RIIMの実験室の広さは約33平方メートル。インキュベーターとクリーンベンチを備え、長期間の細胞培養が可能である。加藤氏は「実験は、臨床検体からDNA/RNAの抽出と、特定の遺伝子の発現量をPCRによって確認する事ができます。とりあえず、最低限のゲノム解析が可能です」と言う。
約20平方メートルの隣室も整備が進んでおり、臨床データやゲノムデータを解析するためのコンピューターシステムを導入する予定だ。
近年、常磐病院には多くの若手医師が集まってきている。東大医科学研究所で大学院博士課程を終えた森甚一医師(血液内科)や、東京大学医学系研究科の大学院生で、シカゴ大学の中村祐輔教授のラボに留学していた吉岡佑一郎医師(消化器外科)だ。ともに30代半ば。医師としてもっとも働ける世代だ。