親の経済力いかんで子どもの将来が左右されるという「親ガチャ」。一昨年の新語・流行語大賞でトップテン入りし、格差社会を象徴する言葉となったが、永田町も事情は似たり寄ったりだ。大事な未来を決める政治の世界は、このままでいいのか。
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岸田文雄首相は2021年の自民党総裁選に出馬した際、党の動画チャンネルで「親ガチャ」について聞かれ、「寂しく、悲しいことだ。子育て世帯をしっかり支える施策を用意し、格差をなくさなければならない」と殊勝にコメントした。
その総裁選を勝ち抜き、首相の座を射止めて1年後、岸田氏は長男の翔太郎氏(32)を政務担当の首相秘書官に抜擢(ばってき)する。慶大法学部を卒業後、三井物産に入社。20年に退職後は岸田氏の事務所で公設秘書を務めていた長男の起用に対し、「公私混同」「身内びいきでは」といった批判や疑問の声が野党のみならず与党からも噴出した。
皮肉なことに、この「親バカ人事」がいま岸田政権の足を引っ張っている。今年1月に岸田氏がパリやロンドンを外遊した際、同行した翔太郎氏は公用車を使って“観光三昧(ざんまい)”をし、老舗超高級百貨店などを訪ねてはお土産を買い込んでいたと「週刊新潮」が報じたのだ。
観光地での写真撮影は対外発信に使う、買い物は閣僚に向けた首相の土産購入が目的の「公務」である……。政府は苦しい言い訳を強いられた。
岸田氏が翔太郎氏を秘書官に起用したのは「岸田家4代」への布石と見られている。岸田家は現首相の文雄氏だけでなく、先代も先々代も衆院議員を務めた世襲一家。翔太郎氏が跡を継げば4代目となる。文雄氏も父・文武氏の秘書から政界でのキャリアをスタートさせ、文武氏が当選を重ねた選挙区から出馬して35歳で初当選している。
2月1日の衆院予算委員会で、翔太郎氏を「官邸の要」である首相秘書官に任命したのは妥当かを首相に問うた立憲民主党の落合貴之議員は、「自民党の衆院議員の3割以上、閣僚は半分以上が世襲」「英国の貴族院でさえ世襲の割合は2015年の調べで1割」などと例示し、日本の現状は「異常だ」と訴えた。