関西の夏の味覚として知られるハモ(兵庫県南あわじ市提供)
関西の夏の味覚として知られるハモ(兵庫県南あわじ市提供)
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「いち、にの、さーん!」 人間の腕ほどの太さのハモが、一斉に海に放り込まれた
「いち、にの、さーん!」 人間の腕ほどの太さのハモが、一斉に海に放り込まれた
淡路島では、1.5~2キロのハモを料理する。おすすめは旬のタマネギと合わせた「ハモすき鍋」
淡路島では、1.5~2キロのハモを料理する。おすすめは旬のタマネギと合わせた「ハモすき鍋」
骨切りしたハモの身を、あら骨とタマネギを入れた割り下に入れていく。ハモの身が丸まったら裏返すという
骨切りしたハモの身を、あら骨とタマネギを入れた割り下に入れていく。ハモの身が丸まったら裏返すという
ハモすき鍋の締めは卵でとじたハモの子をご飯にかける「ハモの子丼」で。上品な味わいでおいしい
ハモすき鍋の締めは卵でとじたハモの子をご飯にかける「ハモの子丼」で。上品な味わいでおいしい

 関西の夏の味覚と言えば、ハモ。高級魚として知られ、毎年7月に開催される京都の祇園祭や大阪の天神祭には欠かせない食材だが、実は、おいしいのは夏だけではないという。

【おススメの「ハモすき鍋」はこちら】

「いち、にの、さーん!」

 漁業関係者らの掛け声に合わせて、長さ1メートルほどのハモ8匹が、船上から一斉に海に放り込まれた。細長く、にょろりとした体が宙を舞う。本州と四国を結ぶ淡路島の南に浮かぶ沼島(ぬしま)で、2017年5月下旬にあった「鱧(はも)供養祭」のクライマックスだ。

 温暖な海を好み、国内では瀬戸内海や九州などに生息するハモ。ハモ漁が盛んな沼島では、毎年、シーズン到来を前に豊漁などを祈る「鱧供養祭」が営まれる。島の漁師らが海の安全などを願う、島内の西光寺で法要が行われた後、船で島の東部、高さ約30メートルもある巨岩「上立神岩(かみたてがみいわ)」の前まで行き、ハモを放流するのだ。

 沼島のある兵庫県南あわじ市などによると、ハモの歴史は安土桃山時代までさかのぼる。江戸時代、1697年発刊の食物について書かれた書物「本朝食鑑」には、「淡路島の鱧」と記載があるという。生命力が強いハモは、交通網が発達しておらず、保冷手段が乏しかった時代でも、生きたまま兵庫から京都や大阪に届けられたため、重宝された。

 淡路島のハモはほとんどがメスで、小顔で身が引き締まっていることから「べっぴんハモ」と呼ばれている。供養祭を主催した灘・沼島観光ふるさと会の斉藤聡代表は「淡路島のハモは皮も骨も柔らかい。食べ比べてみたら分かるが、よそには負けん自信がある」と胸を張る。

 一般的に、ハモは秋の産卵に向けて脂がのってくる初夏ごろからが旬だといわれているが、「なごりハモ」「落ちハモ」と呼ばれる、産卵後に食欲を増したハモもおいしいという。国内外で学校を展開する辻調理師専門学校(大阪市)の日本料理教授、濱本良司さんは「秋ハモは皮が厚く、硬くなりがちで、骨も太くなるので、しっかりとした骨切りが必要。ですが、秋のマツタケと合わせた吸い物『鱧松』は逸品です」と語る。

 ハモを調理する際に必要なのが、小骨を細かく切っていく「骨切り」の技術だ。濱本さんによると、昔から「骨切りは皮一枚だけを残して、一寸(約3.3センチ)に包丁を24~26回入れる事が理想」と言われているという。「できる限り薄く切り込み、骨を切るには熟練した技術が必要。包丁の扱い方や動かすスピード、(包丁を入れる)深さを習得するには、数をこなして経験値を上げるしかありません」。骨切りの技術を習得するのに10年はかかる、とも言われている。

 関西ではなじみが深いハモだが、関東ではあまり食べられていない。その理由を濱本さんに尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。「関東ではさまざまな魚が多く獲れるため、わざわざ小骨の多いハモを使わなくてもよかったのではないでしょうか。関西では、生命力の強さから珍重され、需要があるので骨切りのできる職人が多い。そんなことから好まれたのではないかと言えます」(濱本さん)

 なるほど、小骨の多さゆえに敬遠されたことが、関東でハモが広がらなかった理由と言えそうだ。とはいえ、近年は自動で小骨を切る骨切り機が普及し、関東でハモを食べる機会も増えている。

 また、ハモと言えば湯引きしたものを梅肉で食べるのが有名だが、「くせのない淡泊な魚のため、小骨の問題さえクリアできれば無限に料理の幅は広がる」(濱本さん)という。

「吸い物や造り、焼き物、煮物、揚げ物、和え物、酢の物、ご飯ものすべてオッケー。例えば表面を香ばしくあぶった焼き霜という造りや、たれをかけながら焼くつけ焼きにしてもよい。つけ焼きにしたハモは、ハモずしやハモご飯、塩もみしたキュウリと合わせて酢の物にしても楽しめます。煮物で玉子締め、油で揚げて天ぷらや南蛮漬けにするなど、多方面に広がる食材と言えます」(濱本さん)

 灘・沼島観光ふるさと会の斉藤代表におススメの食べ方を聞くと、淡路島特産のタマネギと合わせて食べる「ハモすき鍋」が人気だという。

 割り下にハモのあら骨と特産のタマネギを入れ、ぐつぐつと煮る。ハモが、花が咲くように丸まったら、裏返して煮る。淡泊だが味わい深いハモと、タマネギの甘みがよく合うのだ。仕上げには特産の手延べそうめんを入れて、うまみを吸っためんを味わう。締めにはハモの子(卵巣)を入れ、卵でとじて「ハモの子丼」にする。つぶつぶのハモの子に卵が絡み、口の中に上品な甘みが広がる。

 近年はスーパーで見かける機会も増え、ぐっと身近な存在になってきたハモ。夏のハモはこれからが旬。湯引きはもちろん、いろいろな食べ方で楽しんでみてはいかがだろうか。 (ライター・南文枝)