秩父宮ラグビー場の空撮写真。
秩父宮ラグビー場の空撮写真。

──署名は現在、約1万5千人を超えました。

 ラグビー仲間からも、「教えてくれてありがとう」といった連絡が来ています。この問題に関する報道は増えましたが、まだ世間の関心は低い。

 隣の神宮球場の移転についても、野球に関する著作がある米国人ジャーナリストのロバート・ホワイティングさんが署名活動を始めています。

■ノーサイド精神 秩父宮が育てた

──再開発計画は、日本のスポーツ界の発展につながるのでしょうか。

 神宮はアマチュアスポーツの聖地です。ラグビーも含め、スポーツ文化を発展させるには、日本代表チームやトッププロのチームだけが強くなればいいというものではありません。子どもたちへの普及活動、そして大人になってからもラグビーの魅力を知ってもらうことも大切なんです。

 再開発計画では、軟式野球場やフットサルコートなども廃止されます。市民が気軽にスポーツをする場を奪うのです。

──ラグビーファンの間では、プレーする選手との距離が近い秩父宮は人気がありました。名勝負の舞台となった場所が消えてしまいます。

 秩父宮って、少し前まではお風呂が一つしかなかったんですよ。勝ったチームも負けたチームも、試合が終われば同じ風呂に入って語り合う。戦争に負けた日本人が、お風呂を通じてノーサイドの精神を広めてきた。

 かつては英国でも使われていましたが、今では試合終了の時に「ノーサイド」とコールするのは日本ぐらいです。私も現役の時は海外の選手から「ノーサイドって何?」と聞かれたこともあります。こういった歴史を持つ施設が失われていいはずがありません。

──神宮外苑の再開発工事はすでに着工しました。

 これだけの問題を抱えているのに、まだ議論が尽くされていません。再開発をするにしても、利用者たちの声を広く聞いてほしい。

 これは、神宮外苑だけの問題ではありません。思い出のある場所が壊されてしまうということは、誰でも、どの場所でも起こりうることです。私たちに与えられた権利である「文化的な生活」を守るためにも、この問題がもっと広く知られることを切望しています。

(西岡千史)

週刊朝日  2023年2月17日号

暮らしとモノ班 for promotion
節電×暖房どれがいい?電気代を安く抑えて温めるコツ