──なぜ、このような計画が進んでいるのでしょうか。
どういう経緯で決まったのか、本当によくわからないんです。
ただ、2019年に開業した新しい国立競技場が22年度予算では13億円近い赤字を出していることは影響しているでしょう。しかも、今後も毎年数億円の赤字が出ることは確定している。それもあって、新しい秩父宮で赤字を出すことはできないと考えているはずです。
だから、より収益が見込めるイベントを開催するために、移転後は全天候対応のドーム型施設にする。天然芝の管理は大変なので、人工芝かハイブリッド芝にする。すべてが資本の論理、お金儲けの発想です。
──人工芝だと、選手のケガが心配です。
最近の人工芝は質が向上していて、セービングの時などにヤケドをすることは減りました。
ただ、ラグビーは天候をどうやって味方につけるかが重要なスポーツです。雨や雪の中での試合が名勝負として語り継がれることも多い。日本ラグビーの象徴である秩父宮が、人工芝になってしまうということの意味はとても大きいんです。
──環境破壊も懸念されています。
秩父宮の東入場口にあるイチョウ並木は移植の予定ですが、巨木なので成功は難しいと専門家は警告しています。新国立競技場の建設時も移植しましたが、今でも根付いていないそうです。過去に失敗しているのに、同じ過ちを繰り返そうとしています。
──新国立競技場も、建設前の計画がずさんで、当初から赤字額が激増すると指摘されていました。秩父宮でも同じことが懸念されます。
すべてが行き当たりばったりなんです。きちんとした計画を立て、新しい施設を建設するわけではない。一部の人のお金儲けのために、日本ラグビーの歴史やファンの思い出が消されていく。
サッカーワールドカップのカタール大会では、華やかな大会の裏側でカタール国内の人権問題が軽視され、きれいごとですべてを塗りつぶすという意味で「スポーツ・ウォッシング」と批判されました。同じことが、日本でも起きているのです。