「桜に触ったことがある?」「どんな感触がした?」

 受講生たちは口々に「花びらはすべすべで、とても柔らかかった」「木の下を通るとなんだか優しいいい匂いがした」など桜と接したときの思い出を語り出す。

「そうです、桜の花は強い色じゃなくて、柔らかくて、いい匂いがして、すべすべ。そういう“優しい色”なのよ」

 受講生は桜の花に触れたときのひんやりすべすべ、柔らかい感じや、桜からふっと感じた甘く優しい香り、そのときに吹いた柔らかい風を思い出し、それらの体験を色のイメージとして把握していく。触覚や嗅覚が色を作っていくのである。

 湯浅さんは日頃の仕事でも使っている「カラーパレット」を受講生一人一人のために作成した。これはクライアントの虹彩や肌の色を分析し名刺サイズのカードケースに約1万色の中から、その人に似合う色の布をセットにしたものだ。

 パレットは5つの内容に分かれており「ベーシック」「自分がメインになるとき」「誰かを立てなければいけないとき」「肌に一番近い色」「赤(赤はもっともパワーがあり、強い印象を残せる)」というシチュエーション別にセットされている。このパレットがあれば、店員に見せて同じ色のものを選んでもらえるので、一人で服を選ぶことができるのだ。

 しかし講座を進める中で、湯浅さんは受講生たちが真に求めているのは色ではないと感じた。受講生から来る質問が、

「ゴシックロリータファッションが好き。目が見えるゴスロリ仲間は私にはレースがいっぱいある服が似合うっていうけど、本当にそうですか?」

「バンドやっています。ステージに出るとみんな『カッコいい』って言ってくれる。でも、俺本当にカッコいいですか? みんなからどう見えているか率直に言ってください!」

 というように“自分は人からどう見られているのか”という点に集中していたからだ。

 しかし、自分をよく見せるのはスタイリングだけではない。目が見えないために彼らが気づいていないことがあった。それは仕草や表情である。

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