湯浅さんが独自開発した「カラーパレット」。5つのシチュエーションでその人が使うとよい色を質感も異なる布でセットしている
湯浅さんが独自開発した「カラーパレット」。5つのシチュエーションでその人が使うとよい色を質感も異なる布でセットしている
2015年、女性を対象にした講座風景。正面中央が湯浅さん
2015年、女性を対象にした講座風景。正面中央が湯浅さん
2016年、男性を対象にした講座の様子
2016年、男性を対象にした講座の様子

「視覚障害のある人に、カラーコーディネートの講座をしてくれませんか?」

 カラーアナリストであり、マナー講座や就職支援講座の講師なども行う湯浅智子さんのもとにこんな依頼が来たのは3年前だった。

 話を持ちかけたのは以前、湯浅さんの講座の受講生だった吉田理穗(りお)さん。吉田さんはあるきっかけで、国立大学法人で唯一の視覚特別支援学校である筑波大附属視覚特別支援学校(以下、盲学校)の宇野和博教諭と交流を持っていた。

「あるとき盲学校の寮の卒業生向けに行う『視覚に障害のある方のための講習会』の講師を探していると宇野先生から相談されました。その講習会は卒業生が社会に出てから遭遇する日常の困りごとを解決できないか? という寄宿舎指導員の方の提案で始まったそうです。中でも“服選び”は難題で、彼らが自分に似合う色や服を選ぶために、カラーの講座ができる人がいないかという話でした」(吉田さん)

 吉田さんは即座に湯浅さんを思い出した。湯浅さんの色を伝えるスタイルやプレゼンテーションがきっと役立つと確信したからだ。

 湯浅さんは視覚障害のある人への講座はやったことがなかったが、実は2012年頃に原因不明のまま片方の目の視力が低下し、失明の危機に見舞われた経験があった。幸いにも病状に詳しい医師と出会い、手術を受けて回復したが、そのときの不安と恐怖は深く記憶に残っていた。

「私は“瞳コンシャススタイリスト”という肩書で、瞳の虹彩と肌の色を基に分析し、クライアントに似合う色を選ぶ手法を取っています。もし失明したら仕事はもうできなかったでしょう。だから吉田さんからの話が来たときは、使命感を感じ、私で役に立つならぜひやってみたいと思いました」(湯浅さん)

 1回目となる2015年は盲学校寮生の卒業生のうち、女性8名を対象に開催された。2回目は2016年に男性8名に対し開かれた。

 湯浅さんの色の説明の仕方はもともと視覚に頼らない部分も多いスタイルで、吉田さんが「盲学校でも通用する」と思ったのはその点だった。たとえば桜色を説明するとき、湯浅さんはこう切り出した。

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