当時は四六時中、「音」に過敏に反応し、「音」がするたびにイライラしていました。なかでも、掃除機をかける音と洗濯機のまわる音はキライでした。おそらく掃除や洗濯といった「生産的な音」が「何もしていないダメな自分」という現実を突き付けてくるような感覚になったからでしょう。
気晴らしとばかりに、漫画を読み、ゲームにも没頭しました。もちろんたいした気晴らしにはなりません。それでも気をそらしたくて、よりゲームに熱中していると母親が怒鳴り込んできます。
「学校にも行かず、なにやってんだ!」
母の気持ちと私の気持ちはまったく同じ。だからこそよけいにその言葉は胸に突き刺さりました。
ふり返ると、私の悩みは具体性に欠けていました。苦しかったのは確かですが、「大人になれない」「働けない」「どうしていいかわからない」といった悩みは、抽象的な悩みであるがゆえに、具体的な打開策が見つかりにくいものです。
大人はつい、「そんなに悩んでいるなら」と具体策を提示したくなります。「家にいても勉強だけすれば大丈夫だよ」「深く考えずに働いてみれば」などと言いたくなります。けれども、これらのアドバイスは、ほとんどの場合、効果はありません。
不登校から5年後、コピーライターの糸井重里さんに取材する機会がありました。じつはこの取材が、モヤモヤした私の気持ちがスッと晴れるきっかけになったのです。
取材陣は全員10代の不登校経験者。不手際も失礼も多々ありました。私のミスで連絡もなしに30分も遅刻してしまいました。
しかし、そんな私たちを誰よりも喜んで歓迎してくれたのが糸井さんでした。
「ホントに君たちだけで来たの、すごいな~」
これが第一声。糸井さんは席に座ると不登校経験者の私たちに「俺は学校が好きだったよ」と正直な気持ちを話してくれました。取材時間も予定の60分を超え、1時間半もノーギャラの取材に応じてくれました。私がなによりうれしかったのが、取材後に糸井さんから言われた一言。