抗がん剤治療に限界を感じた香川さんはセカンドオピニオンを受けるため、藁をもつかむ思いで15年4月、和歌山県立医科大学内科学第三講座の山本信之医師のもとを訪れた。

「当時最適だと思われる抗がん剤、ドセタキセル(製品名タキソテール)を点滴で投与しました。しかし数カ月後にまた再発してしまったのです。香川さんは吐き気などの副作用が非常につらく、抗がん剤治療の継続を希望されませんでしたので、治療を一時中断しました」(山本医師)

 15年12月、肺がんでは初となる免疫療法薬ニボルマブ(製品名オプジーボ)に保険が使えるようになった。“抗PD-1抗体”という性質の薬で、本来は14年9月に悪性黒色腫(皮膚がん)の薬として世界に先駆けて発売されたものが、追って肺がんにも使えるという国のお墨付きを得たのだった。

 がん細胞を直接攻撃する従来の薬とは異なり、ヒトが備えている免疫力を手助けしてがん細胞を攻撃する。そのため「免疫チェックポイント阻害薬」とも呼ばれている。

 もう少し詳しく説明すると──がん細胞を攻撃する「細胞傷害性T細胞」(以下、T細胞)の表面には、PD-1というタンパク質がある。一方、がん細胞にはPD-L 1というタンパク質がある。これらが結合するとT細胞の働きが抑えられてしまう。つまり、がん細胞を攻撃する力が弱められてしまう。これを防ぐのが“抗PD-1抗体”のニボルマブだ。先にPD-1に結合して、PD-1とPD-L 1が結合するのを妨げ、T細胞の働きが抑えられないようにする。

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