先述した鈴木誠也も翌年の2位指名であるが、菊池と同じく全国大会の出場経験はない。むしろ1年秋からエースを任されており、当初はピッチャーとしての才能を高く評価されていた選手である。バッティングに非凡なものがあり、運動能力の高さも目立ってはいたが、主にピッチャーとして高校時代を過ごした選手を野手として上位指名することは相当な勇気がいることだろう。他の球団も上位で狙っていたという話もあるが、それは鈴木がここまで成長したから言える話である。実際に指名する決断に踏み切った広島スカウト陣の勝利と言えるだろう。
菊池、鈴木と野手を二人取り上げたが、投手も2位で思い切った指名をしている。08年2位の中田廉は下級生の頃から大型右腕として評判だったものの、その後は伸び悩んだ時期もあり最終学年での背番号は3だった。また14年2位の薮田和樹にいたっては大学4年間でリーグ戦の登板はわずか2試合である。13年2位の九里亜蓮も実績はあったものの、他球団からの評価はそこまで高い選手ではなく将来性重視の指名だった。しかしこの三人に関して言うと、完全に成功しているとはいえない。中田は14年に中継ぎで9勝18ホールドの大活躍を見せ、九里と薮田も今年は開幕から一軍で登板を重ねているものの安定感はまだまだ乏しい。それぞれ投げるボールには魅力があるものの、良いピッチングが続かないという未完成な部分を色濃く残しているというのが現状である。直近の阪神戦の三連敗も中田、薮田、九里が打ちこまれてのものだった。
スケールは大きいが完成度の低い選手を上位指名することには大きなリスクがともなうことは間違いない。かつてはそれが裏目に出ていた時期もあったが、ただ菊池や鈴木の活躍を見ると、成功した時に得られるリターンも非常に大きいことがよく分かる。今後、広島が勝ち続けるためには中田、九里、薮田といったリスク覚悟で上位指名した選手のさらなる成長がカギを握っていると言えるだろう。(文・西尾典文)