


目隠しをすると、聴覚や触覚、嗅覚、そして味覚といった他の感覚が敏感になる、 ような気がする。ならば、目隠しをした状態でおいしいものを食べたら、よりいっそうおいしく感じるのではないか。
そんな疑問に答えてくれるレストランが人気を集めている。4月20日にオープンした商業施設GINZA SIXにある「旬熟成 GINZA GRILL」。100日間発酵熟成させた但馬牛のステーキを、目隠しした状態で食べさせるという一風変わったレストランだ。
店側によると「問い合わせの電話をさばけないほどの反響」とのことだが、去る4月某日、開店前に行われた内覧イベントで記者が「目隠しステーキ」を体験していた。その一部始終を紹介する。
●完全な闇で食べる肉の味は?
店内に足を踏み入れると、スタッフに目隠しをするかどうか尋ねられる。もちろん「イエス」と答え、案内された席で待つこと数分で、トレイに乗せられた目隠し用の手ぬぐいがさっそうと運ばれてきた。フォークやナイフが運ばれてくるのはよく目にするが、手ぬぐいだけがトレイに乗っているのはなかなか異様な光景だ。
さらに未知の体験が続く。次にスタッフが運んできたのは……スマホだ。一体何に使うのか?
スタッフによると、目隠しをした上でヘッドホンをし、肉を焼く音を聞きながらステーキを味わうのだという。スマホはその再生用なのだ。しかし、なぜ?
「当店ではこれを『リスニング・イーツ』と呼んでいます。実は肉を焼くときのような高い音を聞きながら食事をすると、甘みを強く感じるという研究結果があるのです。また、その食材に関連した音を聞きながら食事をすることで味わいが深まるともいわれています。例えばハムエッグを食べるときに肉を焼く音を聞くとハムがおいしく感じられ、ニワトリの鳴き声を聞くとタマゴがおいしく感じられるそうです」(スタッフ)
ウソのような本当のような話だが、思わず納得してしまった。ならば牛の鳴き声でもおいしくなるのか疑問に思ったが、スタッフに尋ねると「かもしれません」と苦笑されてしまう。
ともあれ、これで必要なものは揃った。目隠しをして、ヘッドホンを装着する。
もはや視界は完全な闇。レストランという公共の場で目隠しをされているという状況に軽い背徳感を覚える。すると、目の前に何かが置かれた気配がし、焼けた肉の芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻腔(びくう)を満たし始めた。ステーキが到着したのだ。