捕手出身の解説者に、球種によって変わる捕球姿勢の癖やピッチャーとの呼吸で間の悪さを指摘されるなど、キャッチャーとしての評価は、お世辞にも高いとは言えなかった。

 その小林の評価が一変したのが、WBCの本大会での活躍だった。象徴的だったのが、1次ラウンドのオーストラリア戦での「声掛け」だ。5回の1死満塁のピンチでボールが2球続き、明らかに冷静さを失っていた投手の岡田俊哉(中日)に対して、小林が絶妙なタイミングでタイムを要求して間を取った。落ち着きを取り戻した岡田は、直後の投球で打者を併殺打に打ち取ってピンチを脱した。守備面でも攻撃面でも成長した姿を見せた小林は、侍ジャパンの正捕手として試合を重ねるごとに存在感を高めていった。当初は嶋と日本ハムの大野奨太に続く3番手で、しかも小久保監督の「セ・リーグからも1人は選んでおきたい」という程度の評価からの見事な躍進だった。

 以前に野村克也氏から「日本シリーズのような大舞台を経験した捕手は、目に見えて変わってくる」という趣旨の話を聞いたことがあるが、今回の小林はまさにその典型と言えるかもしれない。日の丸を背負い、世界と戦って成績も残したことで、現在の小林には昨年までは感じられなかった自信がみなぎっているように見える。

 ペナントレースに入り、開幕5連勝と好スタートを切った巨人で、小林はここまでの14試合すべてで先発マスクをかぶっている。16日の中日戦では勝利投手となった大竹寛から「誠司との意思疎通もしっかりできていた」と、投手陣からの信頼も掴みつつある。チームは5連勝の後、広島に3連敗するなど現在8勝6敗で3位となり、小林も打率.075、武器であるはずの盗塁阻止率も.167と振るわないが、この数字でも高橋由伸監督が起用を続けるのは、小林を「阿部の後継者」として育てると、腹をくくったからかもしれない。監督の期待に応えてシーズン前の「全試合に出たい」という小林の決意が現実となり、さらにリーグ優勝という経験が加われば、巨人の扇の要は、この先10年は安泰ということになる。

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