数多くシェイクスピアの舞台を手がけてきた演出家ジョン・ケアードさんと日本の俳優、スタッフが組み、日本語で上演する「ハムレット」が、4月9日から上演される。ハムレットを演じる内野聖陽、父親と彼を毒殺した叔父の二役を演じる國村隼が、『AERA English 2017 Spring & Summer』(朝日新聞出版)でインタビューに答えている。二人が挑むシェイクスピアの世界とは。
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「ハムレット」の舞台はデンマークの宮廷。王子ハムレットは父親が叔父に毒殺されたことを父親の亡霊から聞かされ、狂気を装って復讐(ふくしゅう)をとげるが、自らも命を落とす。恋人オフィーリアも狂死する死屍累々の悲劇だ。
稽古場ではジョン・ケアードさんが英語で指示し、それを通訳者が日本語にして俳優に伝える。ハムレットを演じる内野聖陽さんはこう語る。
「ジョンの英語は感覚的な演出の言葉になるとすごくよくわかる。自分の専門分野だからですかね。それが観念的な話になるとさっぱりわからない(笑)。だから通訳が必要です」
今、英語を勉強中だという。英文テキストがある音声をネットで探して何回も聞き、単語を調べ、新鮮な言い回しはリピートして覚える。
その内野さんを待ち受けているのが、悩めるハムレットのあの有名なセリフ、To be, or not to be.だ。
「英語で言えばシンプルなんだけど、翻訳は『生きながらえるか死すべきか』など、多岐にわたります。それだけ観念的で深い言葉なんですよ。僕は、その1行だけは、ずっと英語のままで稽古して、最終的にキャラクターがどういう日本語を使うかギリギリまで悩もうと思っています。今回のハムレットはオリジナルに一番近いところから生まれてくるでしょう。期待してほしいですね」
父親の亡霊と、彼を毒殺した叔父の二役を演じるのが國村隼さんだ。出演依頼があったとき、「えっ、シェイクスピア? なんで自分?」とケアードさんに英語でたずねた。
英語を覚えたのは1990年代前半、映画出演のため香港に3年ほど滞在したときだった。中学、高校で学んだ知識を基本に、撮影現場や生活での実践でリスニング力をつけた。クエンティン・タランティーノ監督とも英語で仕事をしている。
「いやいや、私の場合はやっつけ英語。相手の言っていることは大体わかるし、わからないことは聞き返せる。でも自分からややこしい話を伝えるだけのスキルはないんです」
経験豊富な國村さんにもシェイクスピアは手ごわいようだ。
「修飾語が多くて一文が長い。言葉の音が流れるようにつながっている。詩人的な要素が強い気がします」
そして、三島由紀夫との共通点を指摘する。
「何年か前に三島由紀夫さんの戯曲を演じましたが、やはり一つのことを言うのに山ほどの修飾語が付いていた。それを音として楽譜みたいにイメージしたら納得がいきました。日本語の音の美しさと意味内容の流れを見事に計算しているんです」
音の美しさに意味が重ねられているところがよく似ているという。
「役者は気持ちよく歌うようにセリフを言いそうになるけど、それでは自分の心地よさに埋没してしまい、お客さんに伝わらない。非常に難易度の高い戯曲です。自分がシェイクスピアをやるとは恐ろしい。三島さんのときも七転八倒しましたから」
(構成/仲宇佐ゆり)
※『AERA English2017春夏号』より