山本潤さんは、父親からの性暴力によって「私」を失った。13歳のときのことだ。それから父親と離れて暮らすようになるまでの7年間、日常的に被害を受けることになる。『13歳、「私」をなくした私~性暴力と生きることのリアル~』(朝日新聞出版)には、そんな山本さんが自分を取り戻していく過程がつづられている。表紙の写真が印象的だ。現在の山本さんはこの写真のように自分の足で歩き、生きている。しかし、そこに至るまでには長い長い時間を必要とした。
看護師・保健師として医療現場で活躍すると同時に、「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表も務める山本さんに、本書に込めた思いや願いをうかがった。
――当事者としてみずからの被害、そこからの回復を本として著した背景にはどんな思いがあるのでしょうか?
山本潤さん(以下、山本)「たとえば『痴漢に遭った』『性的虐待を受けた』と性暴力の事実を伝えると、多くの人は大変だったね、つらかったね、と思ってくださるでしょう。でも、被害当事者の内面がどうなっているのかまでには想像が及んでいないと感じます。電車に乗るのが怖くなって通学できないとか、男性を前にすると足がすくむとか症状はそれぞれですが、後の社会生活や恋愛、結婚……つまり人生そのものに多大な影響を与えることを知ってほしいと思いました」
――山本さんもこうして公に被害体験を話せるようになるまでには、ずいぶん時間がかかったようですね。
山本「被害にあっている最中の人、その傷からまだ回復していない人は、自分のことを話せません。思い出すだけで動揺することもありますから。人に話すのはとてもむずかしい……けれど、誰かが話さなければ性暴力被害についての理解はいつまでも得られないと感じています」
山本さんの混乱は、長くつづいた。深夜、女性ひとりで行くのは危険な場所に出かけ、アルコールに溺れたかと思えば、激しい性衝動に突き動かされて男性と一夜限りの関係をくり返す。つじつまが合っていないようにも見える一連の行動も、山本さんにとっては性暴力被害に遭ったことで失った「私」を取り戻すための“あがき”だった。そのなかには、母親との葛藤も含まれる。