幾多の挫折を乗り越え、リオ五輪で金メダルを獲得した金藤理絵。(写真:Getty Images)
幾多の挫折を乗り越え、リオ五輪で金メダルを獲得した金藤理絵。(写真:Getty Images)

 この表彰台の頂点に立つために、何度も回り道をしたかもしれない。でも、その度に経験したことを自分の血肉として吸収し、力に変えてきた。

 金藤理絵、27歳。

 2007年に初めて日本代表入りを果たして以来、幾度となく世界に挑戦し続けてきた。時には日本代表を逃したり、4位でメダルを逃したり、多くの挫折も経験してきた。

 特に、ロンドン五輪代表を逃してからは、師事する加藤健志コーチと衝突を繰り返した。そんな金藤が気持ちを固め、リオ五輪に向けて“覚悟”を決めたレースがある。昨年行われた、ロシア・カザン世界水泳選手権での200m平泳ぎ決勝。メダルも狙えたはずだったが、目指した金メダルを獲得したのは、若手の渡部香生子だった。金藤は力を出し切れずに6位に終わり、涙を流した。

「このままで終わるわけにはいかない」

 ロンドン五輪後、はじめて金藤自ら現役続行を決意したのである。その覚悟は、今年4月の日本選手権での2分19秒65という日本記録となって現れた。何度も挑み、その度にはね返されてきた2009年の高速水着時代に打ち立てた自身の日本記録、2分20秒04という大きな壁を自らの力で打ち破った瞬間だった。

 そんな経験を経て、断固たる決意を持って臨んだ今大会の200m平泳ぎ決勝。持ち味の大きな泳ぎで、水面を滑るように進んでいく。前半の100mを1分08秒26で折り返すと、後半の100mはもう金藤の独壇場だった。150mをトップの1分44秒23でターンすると、ラスト50mは36秒07で、ダントツのラップタイムをマーク。2位のユリア・エフィモワ(ロシア)に身体ひとつの差をつけて2分20秒30、悲願の金メダルを獲得した。タイムを確認した後、左こぶしを握り、小さく、遠慮がちにみせたガッツポーズには、大きな想いが込められていた。

「加藤コーチを信じて続けてきて本当によかったです。いろんな8年間でしたけど、加藤コーチの支えだけじゃなくて、一緒に練習した仲間や、戦ってきた同じ平泳ぎの選手たち、家族、それに加藤コーチの家族にも応援してもらえたので、だからこそ加藤コーチとふたりで世界の頂点を目指してやってこれたのかなと思います」

 日本代表初の女子キャプテンに任命された苦労人は、最高の舞台で、最高に輝くメダルをその手につかみ取った。

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