Tシャツ1枚だった私は、肌寒さを感じ始めた。エビの状態を良好に保つために、エビのセリ場にはエアコンが何機も設置され、室温が低く保たれている。冷気が外に漏れにくいよう、入り口にはエアカーテンまでかけられている。ジャンパーを羽織っていたのは森田さんだけではなく、半袖1枚の姿は少ない。

 セリが行われる場所は二箇所あり、ほぼ同時に進行される。演説台のような台に立つ卸と、ひな壇状になったセリ台に立つ仲買人が向かい合わせになって、セリが進められていく。ひな壇に立つ仲買人は、総勢30名強。皆、相場表を見ながら、エビを競り落としていく。

 セリが行われるのは30分ほどで、仲買人の多くはその間いずれかのセリ台に立ち続けているが、森田さんを含め、動きが少し異なる仲買人もいる。要所要所(どこが要所なのかは私にはわからないが)でセリ台に立ち、1、2分セリを行ったかと思えば、またすぐ降りてくる。目当てのエビが、ピンポイントで決まっているからだ。そんな動きを10回もしないうちに、森田さんはセリ場を離れた。気がつくと、後ろで待機する野村さんのネコ車(手押し車。通称、ネコ)には、エビの入った発泡がすでに載せられていた。

「今日はこれでおしまい。今日は(天然エビの入荷量が)少ない。いつもの半分もないよ」と森田さん。私は、ネコを引く野村さんにくっついて、店に戻った。

 水榮の店の要は、大きなダンベ箱(浴槽ほどの大きさの、魚を入れる大型容器)。ここに海水を張って水槽とし、浮きを付けた四角いカゴを浮かべ、産地と大きさごとにエビを分けて保管している。森田さんは早速、セリ落としたばかりのエビを、1匹1匹いたわるように確かめながら、水槽に放った。

「すぐに出す(売る)ってことはしないんですよ。(エビにとっては)ここまで長旅を続けてきたわけでしょ。何時間もかけて(産地から)くるんだから、エビにだってストレスがたまっている。だからうちで一晩休ませて、それから売るようにしている。一晩の間に死んじゃうやつは、そこまで。生き延びたエビは、やっぱり、いい」

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