「ペット用に販売されている子ガメは、かわいさと300〜500円程度の安価さもあって、気軽に迎え入れる家庭が多いです。しかし、アカミミガメは大人になると甲長(背甲の長さ)が25〜30cm、体重は2〜3kgにもなります。販売時は3〜5cm、体重は3〜5g程度、実に400倍も成長すると分かってペットにしている人は少ないのが現状です」と話す矢部隆さんもピクチャーカード制作に協力をしている。

 カメを飼い始めた人にとって予想外なことのもうひとつは寿命だ。亀は万年の言葉通り、カメ類の寿命は長い。アカミミガメはちゃんと飼えば30〜40年も生きる。当然、成長したサイズに応じて水槽の大きさを変えるなどお金もかかる。そうなると、もてあましたあげく、池や川などに捨ててしまう人があとをたたない。

「今回の啓発ツールの最大の目的はまさにこの“捨てガメ”防止にあります」(大野さん)

 アカミミガメは最も多く飼われているミシシッピアカミミガメ含めすべて日本にもともといなかった外来種。これが野に放たれてしまったため、ニホンイシガメなど日本の在来ガメを圧迫したり、水草を食べ尽くしたりするなど本来の生態系に被害を与えているのだ。自然保護協会の調べでは、野外で見ることのできるカメのなんと64%がアカミミガメと判明している(平成25年)。環境省ではこの頭数を約790万匹(平成28年)、飼育されているカメについては約110万世帯で約180万匹が飼われていると推計している(平成25年)。
 
 このアカミミガメ対策普及啓発ツールは「大きくなってもいっしょにいるよ」という言葉が印象的。カメが飼い主に呼びかけているような感じがあり、受け入れられやすい。

「通常こうした問題を呼びかけるポスターは“○○するな”と禁止を呼びかけるものになりがちですが、それだと逆に伝わらないという思いがありました。自然保護協会と生態工房に協力してもらったことで、このフレーズが出てきて、普段と違うふんいきのものができあがったんです。そのかいあって、大変好評です」

 このグッズを担当した環境省外来生物対策室の立田理一郎さんは背景をこう語る。環境省では今後、段階的に国外からの輸入ストップなどの段階的な規制、捨てガメゼロ、地域での防除推進などを進めていく予定だ。

 考えてみれば、捨てられる要因となる“長生き”は逆に長所でもある。これだけ長い間生活を共にできるコンパニオンアニマルはなかなか見つからない。カメは黙って苦楽をともにしてくれる人生の相棒だと認識を改め、これからも末永くご一緒に。

※かめぐるみ、ピクチャーカードは環境省HPで「日本の外来種対策」>「外来種問題を考える」>「注目の外来種」>「アカミミガメ」で検索したページの一番下のリンクからダウンロード可能です

(島ライター 有川美紀子)