押切もえ(c)朝日新聞社
押切もえ(c)朝日新聞社

 第29回山本周五郎賞(主催・新潮文芸振興会)が5月16日に発表され、モデル・押切もえ(36)の小説『永遠とは違う一日』(新潮社)が、湊かなえの『ユートピア』(集英社)に僅差で敗れて受賞を逃したことが話題となった。選考委員の佐々木謙氏は、押切と湊氏の作品は投票で0.5差しかなく「大変僅差だった」ことを明かした。ダブル受賞も検討されたが、規定によって1作品に絞られたという。

 同賞は過去に山田太一、吉本ばなな、宮部みゆき、今野敏ら名だたる作家たちが受賞してきた。もし押切が受賞していれば、昨年の芥川賞を『火花』で受賞した芸人・又吉直樹に続いてフィーバーを巻き起こした可能性があるが、ノミネートだけでも十分に「賞の宣伝になった」とする見方がある。

 10年ほど前、お笑いコンビ品川庄司・品川祐(品川ヒロシ名義)の『ドロップ』(リトルモア)や麒麟・田村裕の『ホームレス中学生』(ワニブックス)のヒットをきっかけに芸人たちの間で作家デビューブームが巻き起こった。その流れを文学界も取り込み、今までお堅いイメージだった文学誌にタレントを次々と起用。最近では俳優やアイドルらも作家デビューして芸能界全体に波及している。

 それだけなら仕事の幅が広がっただけの話だが、2010年に俳優の水嶋ヒロ(齋藤智裕名義)が執筆した処女作『KAGEROU』(ポプラ社)が「第5回ポプラ社小説大賞」を受賞したことで批判が起きるようになった。「デキレースでは」との臆測が飛び交ったためだ。

 押切のノミネートに関しても、直木賞作家の伊集院静氏が4月下旬に出席したイベントで「昔は小説を書いている人でキレイな人はいなかった」と美人作家の活躍に目尻を下げつつ「山本周五郎賞の人気を出したいから選ばれたんじゃない?」とチクリ。実際、文学賞は芸能人を話題作りに利用しているのだろうか。

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