滋賀県にある日本最大の湖、琵琶湖の沖合に浮かぶ沖島。あまり知られていないが、国内で唯一、湖で人が暮らす、周囲約6.8キロ、面積約1.5平方キロメートルの小さな島だ。自動車が1台も走っていないこののどかな島で、滋賀県近江八幡市役所が空き家への入居者を募集している。いったいどのような島なのか。
沖島から約1.5キロ離れた対岸にある、近江八幡市の堀切港から定期船「おきしま」に乗ると、10分ほどで沖島漁港に着く。船を降りて目の前に広がるのは、“昭和”の町並みだ。港から続く道沿いに、家々がひしめき合うように建ち並ぶ。自動車が走らないため道は細く、信号機は1つもない。島民は徒歩か自転車で移動するのだ。
沖島の人口は約300人。島民の約6割が漁業などの第一次産業で働いている。琵琶湖で獲れる魚の半分は、沖島の漁師によるものだ。島民は一家に一隻、船を所有し、漁業や移動に利用する。堀切港に車を止め、そこから通勤や通院、買い物などに出かける人も多いという。
自動車が走らないためか、島を歩いていると、波の音や鳥の鳴き声が大きく聞こえる。ゆっくりと自転車をこいでいく、おじいちゃん、おばあちゃんたち。「沖島時間」ともいわれる、ゆったりとした時の流れが心地よい。だが今、この島は人口減少や高齢化という大きな問題を抱えている。
島内にある市立沖島小学校の児童数は12人で、うち島の子どもは3人。他の9人は、島外から定期船で通学する。1年生3人は、全員島外の子ども。併設の幼稚園は休園中で、4月に新入生が入ってくるかどうかは不透明な状況だ。高学年の女子児童2人は「もっと人に住んでほしい」「遊ぶ人が少ないから、子どもがいる人が移り住んでほしい」と話す。
市によると、1958年に812人だった島民は、半数以下に減少。少子高齢化が進み、2015年4月時点の高齢化率(65歳以上の人口が占める割合)は約5割だ。若者は進学や就職で島を出ていくため、漁業の後継者不足も深刻だという。13年には、国が活性化を支援する離島振興対策実施地域にも指定されている。
このため、16年1月から市が空き家を定住促進用住宅として借り上げ、入居者の募集が始まった。空き家は、1976年建築の木造2階建て。延べ床面積120平方メートル、間取りは7Kで、現在改装中だという。家賃は月額1万5154円(光熱水費を除く)と、市内の相場の3分の1以下だ。
応募にはいくつか条件がある。島に1年以上住む意思がある、島の活性化を進める協議会のメンバーとして活動できる、島内行事に積極的に参加し、地域になじむ意思がある、などだ。必須ではないが、漁業(加工やPRなどを含む)をする意欲がある、中学生以下の子どもがいる子育て世帯、夫婦いずれかの年齢がおおむね50歳以下の世帯が望ましいという。
確かに、豊かな自然の中でのびのびと子育てをしたいという人には良いかもしれない。琵琶湖だけでなく山もあり、島全体が遊び場になるし、「夏は琵琶湖で泳げるから楽しい」「運動会は島の人もみんなでやるので面白い」(高学年の男子児童)ともいう。「母親が島を気に入ったから」ときょうだいで島外から沖島小に通っている児童もいる。
子どもたちはみんなきょうだいのようで、筆者の質問に生き生き答えてくれた。全校児童数百人の大規模校から15年4月に転任してきたという森本眞左子校長は「1人1人(のキャラクター)が濃いためか人数の少なさを感じない。それぞれの個性に合わせたきめ細やかな教育もできるし、穏やかな環境の中で子ども時代を過ごせるのは良いと思う」と話す。
結婚して島に来たという40代の女性は「人と人とのきずなが強いので、安心して暮らせる。子育て世代の人、若い人が来てくれたら気持ち的にもうれしい」と話す。子どもが外に遊びに行っても、島の人の目があるから安心なのだそうだ。いたずらをした時もすぐに伝わるのもいいという。
入居の申し込み受付は、2016年2月26日まで(書類を郵送する場合は消印有効)。受付後の3月9日、市の担当者や島民の代表者らによる面接を行い、入居者を決める。実際の入居は、3月中を予定しているという。問い合わせは近江八幡市政策推進課まで(詳細は下記)。
島には食事をするところもお店も少ないが、定期船で湖を渡れば市内に行かれるし、京都までは電車やバスなどで約1時間だ。戸惑うことも多いだろうが、島になじんでしまえばのんびりと田舎暮らしが楽しめるかもしれない。日本で唯一の島に住んでみるのはいかがだろうか。
(ライター・南文枝)
【沖島移住詳細情報】
近江八幡市ホームページ
http://www.city.omihachiman.shiga.jp/contents_detail.php?co=ser&frmId=10012