結局、裁判所から歩いて約20分程度、帰路につく弁護士を取り囲み、ひとことのコメントも取れなかった。
「寒いなか、朝からずっと待ってたのに。まったくの空振り。やってられないよね……」
在阪放送局の取材クルーは憔悴しきった様子でこう語る。この日、神戸市内の気温は約13度という寒空。朝から夕方まで待たされて何のネタもない。ののちゃんではないが“号泣”したくもなろう。混乱を避けるために動員された警察官も同じだ。
「一般の市民の方も、報道陣の方も、とにかくけががないように……。むちゃな取材はやめて下さいね」
警備にあたる警察官のひとりは、歩道に出て撮影するカメラマンに注意する。心なしかその声はどこか疲れを帯びていた。
何の結果も出せず泣くに泣けない報道陣と、それに付き合わされる警察官とは対照的に、笑いが止まらなかったのが神戸地裁内の食堂と近隣の喫茶店だ。
「大事件? やさかい、大勢の人がコーヒーやご飯食べにきてくれてよかったわ。マスコミの人だけやのうて今日は傍聴に来た人も来てくれたさかい。師走前のええボーナスになったわ」
近隣の喫茶店店主がホクホク顔で話す。普段、平日の日中には裁判所近隣で事務所を構える弁護士やその事務員しか来ないというこの喫茶店だが、今日は満員御礼。せっかく来店した客に「お断り」しなければならないほどの盛況ぶりだった。
被告人欠席の初公判で、今なお、話題を席巻する“ののちゃん”元県議。本人出廷となれば、さらなる話題となることは間違いない。
(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)