その島はある企業の私有地。かつてはリン鉱石の採掘で栄え、島の形が変わるほど掘り尽くされ、そして今は爆撃の標的にされている。これだけを聞いて、それがどこの島なのか分かる人がいたら相当の「島通」である。
この島の名は沖大東島。沖縄の南大東島から約150キロ南にある無人島である。別名ラサ島。名付け親は1804年にこの島の近海を通ったらしきフランスの軍艦。ラサとは平坦という意味だという。
一時期はリン鉱石採掘で2000人以上の人が暮らしていたそうだが、1945年、戦争の激化により全員引き上げ、その後はリン鉱石を採掘していたラサ工業の私有地となっている。現在は米軍の射爆場となっていて米軍はラサ工業に使用料を払っているそうである(ちなみに、日本には何カ所か米軍の射爆場となっている島がある。かの尖閣諸島にも2島ある)。
なんと、この話だけでもいろいろな想像力をかき立てられる。無人島。それは海洋民族である日本人の心をなぜかそわそわさせる存在だ。日本には6852の島があるが(日本離島センター発行『SHIMADAS』 2004年改訂版)、うち有人島は418島(平成22年国勢調査)にすぎない。日本の島の大半は無人島なのである(とはいえ、単なる大きめの岩礁レベルのものも含まれるが)。
そのような無人島の中でも、たどり着くことすら困難な島ばかりを集めた『秘島図鑑』(河出書房新書)という本ができた。著者はダイビングを通して島行きを楽しむ、無類の島好きである清水浩史さん。
「たとえば“離島”といったときによく名前が挙がるのは小笠原の父島や、北大東島、トカラ列島などですが、私はその先にある島が気になったんです。行くことができない島だからこそ、好奇心がくすぐられたんですね。そこで、『旅する島』ではなく『行けない島』というくくりでの紹介はどうだろうと考えました」(清水さん)
洋書にも世界の絶海の孤島を取り上げた「Pocket Atlas of Remote Island:Fifty Islands I Have Not Visited and Never will」という本がある。その本を読みながら、清水さんは「情報で想像しながら行けない島に近づく」というアプローチを念頭に置いて『秘島図鑑』を書いた。確かに、名前も知らない無人島が詳細な情報によって浮かび上がり、自分の中に想像の島が見えてくるのが分かるような本である。