幼稚園児から中学生までのクラブ員10数人が、楽しげにマット上を動き回っている。練習というより、遊んでいる雰囲気だ。角地山監督も「コラッ」とか、「気合だ!」といった掛け声は一切なし。基本動作の確認、体幹を鍛えるトレーニング、スパーリングと続いた練習は、「鬼ごっこ」で締めくくられた。子どもらは終始一貫して笑顔である。

「監督は徹底して、反スパルタ。試合で劇的な勝ち方をしても、負けても監督は普段通りです。(登坂)絵莉ちゃんも楽しそうに練習していましたよ」(練習を見学していた保護者)

 角地山監督は、日大、警視庁時代、スパルタ指導で強くなった世代だが、ジュニアの指導では「勝ち負けより、体力をつけることが大切」と考えている。

「小学生のころの登坂はガリガリで、技が切れるというタイプではなかった。教えたことがなかなかできず、父親を相手に体に染みつくまで、何回も居残り練習をしていた。自宅まで走って帰ったり、途中で懸垂をしたりもした。しつこいタックルや無双は自主練習で身に付けたもの」(角地山監督)

 登坂は仲間と「伸び伸びレスリング」を楽しみながら練習した。とはいえ、「未来の世界女王」は楽しむだけではなかった。自主練習で自らに「スパルタ」を課していたのだ。

 同クラブに「登坂二世」が続々と誕生している。中村成実、中谷湖雪、姫野笑琉ら3選手が、いずれも小学生時代に日本一に輝いた。

 日本一をつかんだこれらの選手も登坂を見習って自主練習に励んでいるようだ。角地山監督は苦笑いをしながら、こう話す。

「登坂の影響でしょう。うちのクラブは、女子の方が強くなっちゃってね」

 日本の女子48キロ級は、登坂が世界選手権で5位以上に入ったことで、リオデジャネイロ五輪の国別出場枠を獲得した。五輪の代表は、12月の全日本選手権後、日本協会が正式に発表する方針だが、メダルを獲得した選手は「ほぼ内定」といえる。

 登坂は試合後、リオ五輪を視野に入れて「優勝できてよかった。リオでは今回以上に差をつけて勝ち、絶対金メダルをとりたい」と決意表明した。

 不器用さゆえに身に付いた「粘りのタックル」。リオ五輪に向けて、大きな武器になるだろう。

(ライター・若林朋子)

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