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 どうやら、彼らは結婚について“諦めの境地”に達しているようだ。

「結婚? 自分とは関係のない世界の話ですよ。人と関わることが苦手だからヲタクやってんですよ。他人と同居する結婚なんてとても考えられない。自分とは関係のない異世界の話ですね」

 こう話すのは東京都内で大学非常勤講師をするAさん<仮名・45歳>だ。80年代後半に流行ったストーンウォッシュのジーンズ、アニメキャラのプリント入りのトレーナー、銀の角縁フレームのメガネ、お洒落という概念を超越した長髪という、多くの人が思い描くであろう“ヲタク”を体現化したコーディネートでまとめたファッションからも、彼が年季の入った「アニメヲタ」「アイドルヲタ」ということが窺える。

「アニメとアイドルにはまって同性の友人すらいないんですよ。そんな自分が結婚なんてそもそもできるはずもないでしょう?」(Aさん)

 今、“婚活”がブームだ。バブル経済崩壊以降の失われた20年、リーマン、サブプライムといった金融危機と、慢性的な経済不安が続くなかで、人はやはりひとりでは生きていけない。支えあうことが大事だ。結婚すればひとりではなくふたりで苦境も乗り越えられる。そこにはそんな思いがあるのかもしれない。

 だがAさんのようなヲタクには、その支えあうこと自体が苦痛なのだ。人とのコミュニケーションが苦手だからだ。だから結婚など考えられないという。

 もっとも理由はそれだけではない。非正規採用の職、平均年収額に満たない収入、すなわち低収入であることが大きい。

「ひとりでやっと生活できる額ですよ。これで嫁さんをもらって養えなんて、とてもムリ!」(Aさん)

 こうした動きを出会いのプロフェッショナル、結婚相談業者はどうみているのか。複数の相談業者の声を総合すると、「キモヲタとかは関係ない。ビジュアル面はいくらでもブラッシュアップできる。だが年収面だけはどうしようもない」と異口同音に話す。

 事実、結婚できるだけの最低年収というものが現実にはある。その額は首都圏、京阪神地区では年収400万円、地方だと300万円と相談業者間ではされている。

 ただし、この額は絶対的なものではない。ある女性相談業者は、「業態や職種によっては収入が低いこともある。正規職員であれば年収350万くらいあればまとめれる。非正規だと正直難しい」と相談業者が責任を持てる最低ラインを語る。

 つまり低収入でも結婚したいという気持ちさえあれば相談所に駆け込めば良縁がまとまる可能性はあるといえよう。

 このような背景を知ってか知らずか、なかなか結婚しない子を案じた親が相談所に駆け込むケースも増えている。いわゆる「ヘリコプター・ペアレント」だ。

 結婚という人生の一大事を親が行うことについて、「親離れできてない」(女性相談業者)、「相手の親、家をみることも大事、親が関わることで家族のあり方を考えられる」(男性相談業者)と、実のところ相談者間でも意見がわかれている。

 だが親が関わる、関わらない問わず、結婚とはそもそも本人の意思で行うものだ。本人にその意思がなければ話がまとまるはずもない。いわゆる低収入、かつヲタクといわれる人は、結婚することそのものを諦めているところがある。

 そのため、相談業者は「まずはポジティブに物事を考えて貰うようアドバイスします。運動させて汗をかかせることもあります」(CANmariage・坪井美樹さん)とまずは相談者の意識を前向きにさせることに力を注ぐという。

 相談者が前向きになってはじめて婚活のスタートラインに立てるからだ。

 結婚相談所「名古屋婚活」の内田理恵さんは、「女性に対しての気配りや周りへの気遣いが必須ということを一緒に考える。相談者によってはファッションセンスのブラッシュアップも図っていきます」と話す。どこの相談所も良縁をまとめようと至れり尽くせりのサポートぶりをみせる。

 実際、ヲタク男性と趣味が合う女性も相談所に登録しているという。結婚とは生活だ。日々互いに暮らしていくなかで“楽”であることは毎日の結婚生活では欠かせない要素だからだ。

 低収入で金なし、友なし、彼女なしの「ないないづくし」という現状を嘆き暮らすのも人生だが、そんな自分を認めてくれる生涯の伴侶をみつけ、これからの人生をより実りあるものにするのもまた人生である。

「結婚生活は自分をさらけ出すことです。毎日、共に食べて、風呂にも入り、トイレの音や臭いも感じて、おならもして、セックスして。恥ずかしい自分をさらけ出すから何でも言える関係ができて互いにかけがえのない存在になってくる。10年後、20年後、30年後……、共に過ごす伴侶とはそうやって絆を強めていくのではないでしょうか」(良縁コンシェルジュ・佐野浩一さん)

 今、孤独死と思われる最期を迎えた65歳以上の高齢者が増えているという。東京都によると、その数は東京23区内に限っても2013年には2733人、統計を取り始めた02年の1364人に比して、9年間で倍になっている。

 昨今の婚活ブームは、少子高齢化社会への焦りからきているとの声もある。だが先に紹介した統計をみると事態はもっと切迫化しているのではないだろうか。誰にもみとられずに人生を終えることはあまりにも寂しい。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)