「NAS電池は当初、揚水発電の代替として研究が始まりました。しかし、時期が経つごとに、非常用電源、再エネでの活用、最近では(送電)系統対策と、さまざまな用途があることがわかってきました。まだまだ可能性は広がっていくはずです」(佐藤マネージャー)
事実、13年にはイタリアの送電企業、テルナ社とNAS電池システムの納入契約を締結。「イタリア南部で再エネによって発電、北部の重工業地帯で需要があるときに供給を行うもので、全国的な取り組み」(澤藤主任)になるという。日本国内でも、二又風力発電所(青森)に34メガワットのNAS電池を設置。同発電所の電気は東北電力、東京電力を通じて、新丸の内ビルディング(東京)にも供給されているという。
一方で、苦難も経験している。
震災から間もない11年9月、茨城県内の工場で使用されていたNAS電池が発火。工場施設への延焼、人的被害は避けられたものの、およそ半年間、運用・生産が停止される事態となった。火災後は、設計の見直しを実施。火災原因がNAS電池システムの最小単位である単電池の発火によるものであったため、単電池故障の可能性を低減し、万が一、単電池が発火してもほかの単電池に影響を及ぼさない、などの対策が取られた。また、当初より受けていた消防庁による認定も、火災後にあらためて認可され、生産を再開している。
次にNAS電池の課題となるのは、低コスト化だ。
経済産業省が発表するNAS電池の電力量当たりコストは4万円/kWhで、現時点でもほかの蓄電池(例:ニッケル水素電池=10万円/kwh)より安価となっている。それにもかかわらず、コスト低減を目指すのは、次のような理由がある。
「揚水発電の電力量当たりコストは2万3千円/kwhとされており、これと同等にするのが求められるでしょう。自然界には原料のナトリウム、硫黄が豊富に存在しているとはいえ、その他の部品が非常に多く、安全性を維持したままコスト低減を実現するのは、決して容易ではありません。方法としては、量産化と設計見直しを検討しています」(佐藤マネージャー)
さらなる再エネへの活用も「(導入にかかるコストを)政府、電力会社、消費者の誰が負担するかといった議論が起こるはず。それを注意深く見守っているところ」(佐藤マネージャー)「制度面など環境整備がなされれば、NAS電池が活躍できる場面も広がっていくのではないか」(澤藤主任)と、NAS電池を受け入れる政策、世論の形成が不可欠だとの見方を示す。
「電気は貯められない」との常識をくつがえすNAS電池。普及への課題は決して少なくないが、再エネ、そしてエネルギー政策全般に新たな可能性を生みだすシステムといえそうだ。