「電気は貯められる――そう言い切った形で書いていただいて、結構です」
日本ガイシ広報室の佐藤央(ひろし)マネージャーは、自信を持ってそう話す。
同社は、送電線の絶縁体として利用される碍子(がいし)など、セラミックス製品のメーカー。また、2002年より蓄電池「NAS電池システム」を事業化し、国内外190カ所の工場やスマートシティ、さらに再生可能エネルギー(以下、再エネ)関連の発電施設へ納入している。
これまで電力業界では、「電気は貯められない」ことが定説とされていた。電力需要の予測が非常に困難なのが大きな理由であるとともに、蓄電池に一定量を貯めても、利用時以外の自然な放電(自己放電)があるためだ。しかし、NAS電池にはこの定説は当てはまらない。電解質(電極とともに電池を構成する要素)を液体とする一般の電池とは異なり、NAS電池の電解質はβアルミナというセラミックス、すなわち固体を用いている。固体であることによって、限定されたイオンのみが電解質を移動するため、自己放電が起こらないのだ。こうした“性質”により、たとえば電力量=8640kWhの能力を持つNAS電池ユニットの場合では、約1000世帯分の電気を丸1日、供給できるという。
NAS電池は1967年、アメリカの自動車メーカー、フォード社が原理を発表。その後、日米欧で研究が進められ、84年からは東京電力と日本ガイシによる共同研究がスタートした。02年に事業化したのは前述のとおりだが、11年に起きた東日本大震災が、NAS電池にとっての転機となる。再エネの蓄電に有効利用できるのでは、と注目されたためだ。
再エネに関するメディアの報道では「新たに建設されるメガソーラーは原発○基分にあたる…」と書かれることがある。だが、これはあくまで最大出力のことで、多くの再エネは天候によって発電量が左右される。仮に最大出力を発揮できたとしても、そのときにそれに応ずる需要がなければいけない。電力は需給を一致させる必要があるという「基本原則」があるため、そこが特に太陽光や風力など再エネの最大の弱点とされていた。
だが、電気を貯めて弾力的な供給が可能となれば話は別。NAS電池はそれを実現するものとして期待がかけられているのだ。