厚生労働省や国民生活センターが相次いで、歯科インプラント治療についてのトラブルが多発していると公表した。

「当院のチラシが医療広告ガイドラインに違反しているとは、知りませんでした。たしかに誤解される内容で軽率でした。今後作るものは修正します」

 そう話すのは「芝公園歯科」(東京都港区)の院長の烏帽子田敬(えぼした・たかし)歯科医師だ。厚生労働省が定める医療広告ガイドラインで広告が認められていない「インプラント専門医」という肩書を刷ったチラシを、新聞折り込みなどで都内一部地域に配っていた。しかも、烏帽子田歯科医師は、歯科インプラント治療に関する専門医資格を持っていないのだ。

 同院のチラシには「毎月のインプラント埋入本数150本以上」「インプラント1本10万円~25万円程度」といった宣伝文句が並び、かなり積極的にインプラント治療をしているようにみえる。烏帽子田歯科医師の説明によると、「オール・オン・フォー」という治療法だけで、年間100件、これまで1300件近く実施しているという。

 この表記以外にも烏帽子田歯科医師は問題を指摘されていた。そのチラシには「昭和大学歯学部口腔外科学教室連携クリニック」、肩書として「昭和大学歯学部兼任講師」という表記もある。このチラシを見た昭和大学側から昨年夏ごろ、「大学名などを使うのはやめるように」と指摘されていた。ところが、烏帽子田歯科医師はそのままチラシを配り続けていた。

「もう大量に刷ってしまったし、お金もかかっていたので、その分を配り終わるまではいいと思っていました」(烏帽子田歯科医師)

 昭和大学歯学部は、これらの件を受けて、3月末に烏帽子田歯科医師の講師契約を打ち切りにした。

 こうした大学名を宣伝に利用した広告やガイドラインを逸脱した広告は、同院だけではなく、むしろ「氷山の一角」にすぎない。

 そもそも、なぜインプラント治療にはまぎらわしい広告などが多いのか。厚労省の調べでは、歯科医師は約10万1千人、歯科診療所は約6万8千施設。とくに都市部では患者数に対して過剰といわれている。保険診療だけでは経営は厳しく、自費診療で利益が出やすいインプラント治療が注目されている。患者を集めるために他院との差異化を図って、誇大な広告を出す歯科医師は多いようだ。

※週刊朝日 2012年7月6日号