落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「けじめ」。
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3月某日。朝から昼過ぎまで、ぼんやり寝巻き姿でいた。
仕事が立て込んでいる最中のたまの休日なら、こんな嬉しいことはないのだが、全然心弾まないよ。コロナの野郎のせいで、こちとらおまんま食い上げだ。
休校中、テレビでユーチューブのゲーム実況ばかり見ている我が家の子どもたち。「休みだからってダラダラしてたらダメだ! 目的をもって有意義な毎日を過ごすように! わかったかーっ!」とハッパを掛けてみた。「どの口が言うか?」という子どもたちの六つの瞳が私を射ぬく。ゲーム実況のユーチューバーは人を馬鹿にしたような甲高い声で「アウトーっ!!」とタイミングよく叫んだ。
時刻は12時30分。頭の中で1984年の近藤真彦が「けーじーめー! けじめなーさいー、あーなーたーっ!」と熱唱している。わかったよ。着替えるよ。けじめるよ! そもそも「けじめなさい」ってなんだよ? マッチしか言わないし、それ。
人を小馬鹿にしたような雲一つない晴天。今日の私の任務は洗濯のみだ。色柄物と白い物の2度に分けて洗濯するのが我が家のルールだが、普段の私は「この柄物はもうずいぶんくたびれてきたから色落ちすることはなかろう」とヨレヨレの柄シャツを白チームに放り込みがち。
でも今日の私には時間がある。あり余っている。青空の下、己に厳しくいきたい。厳格厳密に色柄物と無地白物を分けていく。そのうちにカミさんのベージュの長袖エアリズムを手に取った。「どっちだ……?」。いつもなら「どちらでも可」。でもこいつには確実に色が付いている。色柄物。でもだいぶくたびれていて白くはないが白く見えないこともない。正直「どちらでもいい存在」。しばらく、青空に透かして見てみた。なぜなら私には時間がある……。
「こりゃCチーム結成すべし」。どちらでもいい奴らを集めると第三勢力が誕生した。ベージュのようなクリーム色のような、白のような、ハッキリしない奴らを洗濯し、干し上げる。ハッキリしない連中も春風に揺られ、それなりに気分が良さげ。