宮尾益知(みやお・ますとも)/専門は発達行動小児科学、小児精神神経学など。発達障害の日本の第一人者(撮影/岡田晃奈)
宮尾益知(みやお・ますとも)/専門は発達行動小児科学、小児精神神経学など。発達障害の日本の第一人者(撮影/岡田晃奈)
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 発達障害の子どもにとってつまずきやすい思春期。家族はこの時期特有の子どもの悩みに、どう対応すればいいのか。発達障害研究の日本の第一人者、どんぐり発達クリニック院長・宮尾益知医師が語った。AERA2020年4月13日号から。

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 以前、発達障害の当事者は思春期に反社会的行動など特殊な行動に走ると考えられていた時期がありました。けれどもそれは発達障害が理由ではありません。そもそも思春期とは、第二次性徴を迎え、体のエネルギーや性的エネルギーが増大する時期。この時期の子どもたちは、本来、友だち同士でエネルギーを交換しながら成長していく。犯罪すれすれで冒険するやんちゃも、ままある。その中で、「ここまではいいが、ここからは犯罪だ」という線引きを社会的に学んでいく。あるいは運動系の部活動などで発散し、あり余るエネルギーを消費していく。ところが、発達障害の子は、友だちとの関係を築きにくく、部活動のような集団の中に身を置くことも苦手です。社会性を身につけたり、エネルギーを発散したりする機会が失われてしまう。友だちとの関係をどう発展させていくか、肉体と精神のアンバランスをどう解消するか、どう自立を達成していくか……。課題が山積みになって、混乱状態に陥る。だから、別の形でカバーしていく必要があるんです。

 私が診察室で幼い頃から診ている子には、「君、こういう特性があって、これは苦手だね? 練習してみる?」なんてこともしっかり伝えます。本人が受容していると、いいふうに克服していくことが多い。発達障害からくる悩みを軽減させるためにも、早めに自分の状態、障害の特性がわかっているとよいと思います。

 家族関係の再構築が必要な時期でもあり、「保護者」と「療育(教育)者」を兼ねることが多い母親から上手く距離を置いていかねばなりません。子の側は突然の関係の変化に動揺もある。だからこそほかの家族は、カバーしたり見守ったりしてほしい。発達障害の子の「孤立のサイン」に気づいてあげることも大切です。

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2020年4月13日号