新型コロナウイルスの感染爆発が迫る状況で、安倍政権は「マスク2枚配布」を発表し、世間は声を失った。精神科医・香山リカ氏は現政権の特徴を指摘する。
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月6億枚生産するといっていたマスクはどこに行ってしまったんでしょう。安倍首相はマスクを全国5千万世帯に2枚ずつ配ると言っていますが、マスクよりまずは休業補償が必要です。
私は、いま新型コロナウイルス感染症にかかわるウェブ心理相談に携わっています。心理相談とはいっても、「収入が減った」「パートの仕事が無期限で休みになった」「ローンが払えない」などの相談が非常に多い。
こうした生活者の声を無視するのは安倍政権の特徴です。専門知を軽視するのもそうでしょう。
たとえば、2015年の集団的自衛権行使を認めた安保法制のときには、衆院憲法審査会で、小林節さんや早稲田大学の長谷部恭男教授ら3人の憲法学者が違憲であると発言をしたのに、無視して成立させました。「老後2千万円」のときは、麻生太郎財務・金融相は審議会の部会報告書の受け取りを拒みました。明らかに参院選に不利だとみたからでしょう。国民の不安や疑問には何ら答えていない。
結局、「今だけ、ウソだけ、自分だけ」なんです。「私や妻が関与していたら辞任する」と言っていた森友問題では、自殺した近畿財務局職員の赤木俊夫さんが残した手記が公表され、財務省の調査報告にはない改ざんの経緯などが書かれていたのに「再調査はしない」。「桜を見る会」の疑惑では、その場しのぎの言い逃れに終始しました。
安倍さんには直接、お聞きしたいことがあります。日本におけるヘイトスピーチ、人種差別、民族差別の問題です。新型コロナについても自民党の議員が差別につながるような呼び方をしています。
世界保健機関(WHO)は15年に、感染症に地域名や人名をつけて呼ぶのは偏見につながるからやめよう、と勧告を出しています。それなのに、麻生財務相は「武漢ウイルスが正確な名前なんだと思う」、自民党の山田宏参院議員も「武漢肺炎と呼ぶべきだ」、青山繁晴参院議員も「武漢熱」と、それぞれ堂々と発言しています。
本来なら「そんな呼び方はやめなさい」と首相が一喝して、終わることですよ。でも、安倍さん自身がこうした呼び方に疑問を感じていないのですよね。
(本誌・上田耕司)
※週刊朝日 2020年4月17日号