又吉直樹原作の映画「劇場」。芽が出ない劇作家の青年の「たったひとつの恋」が描かれる。主人公を演じたのは山崎賢人。二人が思う表現者の苦悩、そして切ない「あのころ」とは…? AERA 2020年4月13日号掲載の記事で、同作について2人が語りあった。
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山崎賢人(以下、山崎):最初にお会いしたとき、又吉さんが「これは自分にとって一番思い入れのある作品なんだ」とおっしゃったんです。それがすごく印象に残って、大事に演じなければと思いました。
又吉直樹(以下、又吉):ありがたいです。主人公の永田は僕自身ではないですけど、やっぱり僕の体験に重なるものがあるんですよね。
山崎:僕もどこかに又吉さんの雰囲気を入れられないかなと、又吉さんの映像をすごく見たりしてました(笑)。
映画「劇場」は、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹の小説が原作。主人公の永田は、なかなか芽が出ない劇作家だ。自分には才能などないのではないかと、自意識と焦りのあいだを揺れ動き、ときに心ない言葉や態度で恋人の沙希を傷つけてしまう。
又吉:僕は小説を書いたとき、永田を「未成熟でわがままだけど、どこかかわいげがあるやつ」と思っていたんです。でも読者の感想や書評で「とんでもない自己中のクズ男」と書かれて、「え? そうなん?」とちょっと驚いてた。でも今回、映画を観て「たしかに、これはひどいなあ」と。
山崎:(笑)。
又吉:一方で、山崎さんがもともと持っていらっしゃる「人に愛される力」のようなものが自然に機能して、僕がイメージしていた「ひどいんだけど、なんかかわいらしい」永田像にもなっていたと感じました。
山崎:俳優も劇作家も同じ「表現者」ですよね。僕にも共感できる部分がたくさんありました。自分のことで一杯一杯になっていると人に優しくできなかったり。そういう自分にいら立ちながら、昼に起きてきて、彼女が作っておいてくれた生姜焼きを食べちゃう、みたいな。