先月30日に訪米し、オバマ大統領と会談。今月13日にも北京で、中国、(ウェンチアパオ)首相、韓国の李明博(イミョンバク)大統領との3者会談に臨むなど、盛んに外交活動をこなす野田佳彦首相。しかし、その内容にジャーナリストの田原総一朗氏は苦言を呈する。

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 4月30日、野田首相はワシントンでオバマ米大統領と会談した。野田首相が当然、オバマ大統領に表明するはずだと思われていたのは次の2点だった。

 一つは、もちろん普天間問題だ。そもそも普天間飛行場は「世界一危険な飛行場」と言われ、地元住民が政府に移設を求め、自民党政権が米軍に移設を承諾させた。米軍にとっては現行の普天間飛行場に不満はなく、移設を凍結されて困ることはない。

 野田首相が普天間問題で何も表明しなかったことを、オバマ大統領は「日本は凍結したままでよいと意思表示した」と受け取っただろう。

 もう一つは、野田首相の訪米前、複数の民主党幹部がその目的を「TPPへの参加を表明し、日本の条件についてオバマ大統領と率直に話し合うこと」だと話していた。

 ところが野田首相はTPPについても全く口にしなかった。どうやら輿石東幹事長に「TPPを持ち出したら、民主党が大変なことになる」と一種の脅しをかけられたようだ。

 野田首相は、なぜ輿石氏の「脅し」に屈したのか。TPPに触れなければ、「小沢氏が消費税増税に賛成してくれる」とでも思ったのか。いま消費税増税に賛成したら、小沢氏の政治生命は失われる。反対の旗を降ろせるはずがない。

 アメリカに行けといわれて訪米し、中国に行けといわれて訪中するだけで、何もせずに帰ってくる。野田首相はまるで宅配便のようだ。

※週刊朝日 2012年6月1日


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