落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「花見2020」。
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CSのTBSチャンネル2で『春風亭一之輔毒炎会』という物騒なタイトルの番組を不定期でやっている。私の独演会をそのまま流す、というありがたいというか、落語家まかせというか、非常に責任重大で厄介な仕事だ。「毒炎」というほど毒を吐いてるわけじゃないのだが、制作側からはそう見えるようで、今回で記念すべき10回目。
2017年の初回にあたり、当時のプロデューサーK氏は「生放送でやりましょう」と提案してきた。馬鹿か? 落語の番組を生放送って? 「昔の寄席番組はみんな生でしたよ」。そら、録画技術のない頃の話だろう!? それに寄席番組は大勢出演するし、司会者もいるし、時間の調整は出来るはず。「独演会は一人だし、ライブでやれば時間の伸び縮みがあるから、番組終了ピッタリに幕が閉まるのは難しいよ」と反論すれば「なんとかなるでしょ。一之輔さんなら」と他力本願なK氏。
あー、やったよ。やったらホントになんとかなった。しかし第2回からは録画になったということは、生にさほど手応えがなかったということだろうか? だから言わんこっちゃない。
で、今年の第10回である。ディレクターW氏が言う。「無観客でやりましょう」。何言ってんの? 「コロナの影響で観客を入れるのは厳しくて……。でも放送枠はあるので、収録はせざるを得ないんです」私「誰もいない客席に向かって、独演会やるの?」W「なんとかなりますよ」。おんなじこと言ってやがる。私「なんなら生放送でもいーよ!」W「いや、それは大丈夫です」。なんだよ、『大丈夫』って。
3月31日。深川江戸資料館小劇場。開場時間になり、誰もいない場内に一番太鼓が響く。必要無いのに場内アナウンス。前座も上がる。落語会はキャンセル続出でみな仕事が無くなったから、極力仕事が行き渡るように必要無いが前座も上がる。全て観客有りの状況と同じようにやる。気は心だ。