若手は俳優・石橋蓮司と芝居を交わすのに、生真面目さと緊張、リスペクトがあったという。今年40歳になる妻夫木聡さんは自分の観てきた映画の憧れの俳優とがっつり芝居をしようという気概に溢れ、役を演じる上で溶接の練習に立川まで足を運んだ。
若い役者ばかりが主役の映画界で「この企画は普通通らないもの」と監督は言う。「そこで『インディーズ』と『石橋蓮司』で打って出た。今の映画界に『石橋蓮司』を投げ込む。横紙破りとでもいうのかな、プログラム・ピクチャーじゃないけど、何をやってもいいんです。だって映画だもの」
原田芳雄邸に集まった時、「(『大鹿村騒動記』で主役を演じた)芳雄の後は、蓮司に」と桃井かおりさんが提案。「やろうよ。みんな手弁当で出るよね?」。居合わせた岸部一徳さん、江口洋介さんがにっこり頷いた。「ふーん。へー」と蓮司さん。「そんなの成立するわけねえだろ」
「(監督は)僕で良いんですかね」と監督が呟くと、「他に誰がおるう?」岸部一徳さんの一言で監督は「本気になった」。実は石橋蓮司主演で温めている企画があったのだ。それが、「一度も撃っていない、伝説の殺し屋」だった。
※週刊朝日 2020年4月24日号