TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、石橋蓮司さんが主演を務める映画「一度も撃ってません」について。
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この作品を観て心から幸せになった。石橋蓮司最新主演作「一度も撃ってません」(近日公開予定)の背景には映画への慈しみとオマージュの豊かな森が広がっていた。監督の阪本順治さんとはもう長い付き合いになるが、飲む日が待ち遠しくて荻窪の焼き鳥屋に開店前に着いてしまった。路上で待ち、マスク姿で駅の方から歩いてきた監督に僕は大きく手を振った。
メインキャストは石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり。こういう人たちと喋るのは楽しいと監督は笑った。「70年安保、よど号、あさま山荘事件と、いろんなことがあったけど、すでにプロの表現者だった彼らはそれらをリアルに体感している。そして演技に繋げている。彼らはコンプライアンスなんて知ったこっちゃないっていう世代なんです」
蓮司さんが演じる市川進はトレンチコート、ブラックハットにサングラスというハードボイルドな装いでバーに夜な夜な姿を現し、煙草を燻(くゆ)らす伝説のヒットマンである。というのは嘘で、ただの売れない小説家。ヒットマンなのに、実は「一度も撃ってません」。
「この映画は石橋蓮司祭りです。彼はハンフリー・ボガート、ジェームス・ディーンにプレスリーの映画を観てきた。そこから生き方というか、格好のつけ方というものを盗んできた。つまりリアルに映画を学んだ人」。その祭りに寛一郎や柄本佑ら若手も加わった。「彼らには大人の遊びを観て欲しかった。原田芳雄さんが言っていた『遊び』を。いい大人が芝居で遊ぶのはこんな感じだって。キメればキメるほどカッコいい。キメればキメるほど滑稽。人生はカッコよさと滑稽さの掛け合わせです」
佐藤浩市さんと寛一郎さんの親子共演も話題である。「テレビで集うのは同世代ばかり。上の世代と演技する経験を積んだ方が、息子にとって良いことだと浩市君は思ったんじゃないかな。俺は寛一郎が生まれた時から知っている。だから俺の前で彼は照れなかった。むしろ浩市君の方が緊張していました(笑)」。僕も撮影に立ち会ったが、この親子の後ろ姿は瓜二つだった。その先に三國連太郎さんがいるのだと思った。