「スチャダラパーはサブカルチャーのホットスポットで遊びつつ、かつヒップホップのスタイルも体現していた。ゲットーにルーツを持つ不良文化としてのヒップホップではなく、ポストパンクのカルチャーとしてのヒップホップを受容した流れにいたと思います」
90年代半ばになると、日本語ヒップホップは空前のブームになる。なかでも象徴的なのが、96年7月、土砂降りのなか日比谷野外音楽堂で開かれたラップイベント「さんピンCAMP」だ。主催者のECDのほかブッダブランド、キングギドラ、ライムスターといった最重要グループがのちにクラシックと呼ばれる楽曲を次々披露。一方、その翌週に同じ会場で、スチャダラパーを中心とした「リトル・バード・ネイション」のメンバーが出演した「大LB夏まつり」が開催。ファンの間では「さんピンCAMP」がハードコア系、「大LB夏まつり」が文化系とみなされ、対立しているような構図が独り歩きしたこともあった。だが両者は人脈的に重なりもあり、交流もあった。
「ブッダブランドやYOU THE ROCK☆も知り合いだったし、ヒップホップ好きが集まってくるクラブにはみんないましたよ」(アニ)
前出の柴さんも、黎明期からの特徴としてこう話す。
「日本のヒップホップは今に至るまでハードコア系と文化系の2本のラインが走り続けており、その両者が実はリスペクトしあっているところが興味深いポイントです」
今でいうと前者がBAD HOP、後者がクリーピーナッツといったところか。そんななか、スチャダラパーは文化系の最重要グループであり続けている。
「ある意味、文化的教養ありきのヒップホップというスタイルです。アンテナを張っている領域はお笑いやゲーム、ネットフリックスの海外ドラマまで幅広く、カルチャーホリックとして現役。『余談』というインディーズ雑誌の責任編集もしており、リベラルな立場で政権批判することもいとわない。足腰の強さがすごいです」(柴さん)
デビュー30周年の記念アルバム「シン・スチャダラ大作戦」には、先の「さんピンCAMP」の出演者で、第一線で活動し続けているライムスターとのコラボ曲「Forever Young」が収録されている。ついに実現した「夢のコラボ」だ。