現実とどこか地続きの異世界へと無理なく引き込まれるのは、架空の法律が細心の注意を払いながら丁寧に生み出されているからに他ならない。

「極端な法律ができたディストピア社会を描く物語はこれまでもあったと思いますが、なぜその法律が国会を通過したのか、憲法違反には当たらないのか。そうした基盤に説得力を持たせるべく、作品には描かなくとも、細かく設定を考えていきました」

 家父長制に斬り込んだ「自家醸造の女」でシュールな展開にほくそ笑み、興奮させられたかと思えば、“バービー”と“フィービー”という2種の存在が暮らす氷の世界を描いた「シレーナの大冒険」では、精緻でありながら壮大な世界観に圧倒された。

「オチを決めずに書き進めた」という物語は、読み手の感情を四方八方に揺さぶり、自分は何に関心を抱き、どんなことに憤りを感じているのかを鮮明に立ち上がらせる。

 初のSF小説だが、「全編を通しブラックユーモアたっぷりに描けたと思う」と新川さんは言う。短編の場合、たとえ読者が途中で飽きてしまっても、次の作品には手を伸ばしてくれるかもしれない。そんな気楽さが、発想をより自由で柔軟なものにした。

「最終的には、『大人』に読んでほしい作品になりました。社会に出て、本音と建前をはじめ、理不尽な思いをしてから読むと染みるものがあるのかもしれません」

 ページをめくりながら、新川帆立という作家の才能の結晶を拾い集める。一人の作家の多面性を堪能できる一冊だ。(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年2月13日号

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