このほかにも、過去に咳や熱などの症状があったけれどPCR検査を受けるまでには至らなかった人とその家族などだという。

 同院で実施している抗体検査はイムノクロマト法とよばれる簡易キット。たった1滴の血液を試薬が含まれているシートに含ませるだけ。色の濃淡で陽性か陰性かがわかる。インフルエンザ診断キットや市販の妊娠検査薬のようなイメージだ。PCR検査のように患者ののどからぬぐい液を採取する必要がないので、飛沫感染のリスクがない。

 また、IgMとIgGの両方を検査することで、感染のタイミングもある程度推測できるという。IgMは病原体が入ったときに最初に作られる抗体で、比較的早い段階で消失する。一方、IgGは比較的ゆっくりと作られるが、そのあとずっと血液中に残っている。

 理論上は、IgMが陽性でIgGが陰性であれば感染初期の可能性があり、IgMが陰性でIgGが陽性であれば感染は少し前に起こっていたということになる。

 ただ、現時点の抗体検査には課題も少なくない。一つは陽性率(感度)の問題で、いま出ているキットは、抗体があっても陽性と判定される割合が低いのだという。久住医師も「特にIgMを調べる検査キットは、陽性率が低すぎるので使えない」と言う。実際、欧米でもこの陽性率の低さを問題視している。

 わが国でも、感染症研究所がイムノクロマト法による抗体検査について評価した結果をウエブサイトで公表している。それによると、PCR検査で陽性となった患者(37症例)の血液を用いて抗体検査を実施。発症後7~8日の陽性率はIgMが10.0%、IgGが25.0%、9~12日が4.8%、52.4%、13日以降は96.9%だった。

 この抗体検査に関して、感染研は「診断において有用となることが期待されている。一刻も早い臨床現場への導入が求められている」としつつも、陽性率などが抗体検査に用いる試薬によって異なる可能性もあり、「慎重な検討が必要である」としている。

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実用化に立ちはだかる精度の壁