美術倉庫の衣装や小道具を使って新キャラを作る企画では、大悟がほぼ全裸にサングラス姿の「イニガ」という異次元的なキャラクターを誕生させた。このキャラクターの人気は独り歩きしていき、なぜか子ども向け漫画雑誌の『ミラコロコミックVer.2.0号』(小学館)で「イニガ」を主人公にした漫画が掲載された。

『テレビ千鳥』では千鳥の2人が今一番やりたい企画を行うことになっている。この番組における千鳥の最大の強みは、大悟がスベることを全く恐れていないように見えることだ。振り切ったくだらないことやバカバカしいことには、スベってしまうかもしれないというリスクがついて回る。

 しかし、千鳥の場合、絶対的なツッコミとしてノブが立ちはだかり、そのユルユルな企画をツッコミで面白くフォローして成立させてしまう。それをわかっているからこそ、大悟もなりふり構わずブンブン大振りをする。場外ホームランも豪快な空振り三振も、どちらも同じくらいダイナミックで見応え十分なのだ。

 千鳥は三拍子揃った有能な芸人であり、どんな時間帯のどういうバラエティ番組に出てもそつなく役割をこなす器用さはある。だが、彼らが本来やりたいのは、『テレビ千鳥』で見せているようなB級感のある笑いなのだと思う。

 こういう種類の笑いは、見る人との間に信頼関係ができていないと伝わりづらいことがある。千鳥が東京に出てから芽が出るまでに時間がかかったのは、彼らを初めて見る視聴者にはそれが理解できなかったからだろう。

 新型コロナウイルスが猛威をふるい、テレビ業界もお笑い業界も大きく揺れ動き、世の中は底知れぬ不安と恐怖に包まれている。だが、初めから低予算のB級感を売りにしてきた『テレビ千鳥』なら、そんな時代にも新しい笑いを生み出し続けてくれるはずだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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